• HOME
  • 国際動向 2015年度

国際動向 2015年度(平成27年度)

BIM/CIMに関わる国際調査

2015年度 BIM/CIMに関連する海外調査

調査名 目的
CIMに関わる要領・基準・ガイドライン調査(欧州方面) 2015年10月24日(土)~2015年11月1日(日)
・ 矢吹教授(大阪大学)、木下教授(日本大学)
Transport for London, UK, BIM Task Group, UK 等
教育・訓練調査(米国方面) 2015年9月20日(日)~2015年9月27日(日)
・ 蒔苗教授(宮城大学)
NYC DCC, MassPort, Rode Island DOT, Wisconsin DOT

当ページの内容の詳細は、建設ITガイド2016(発行:一般財団法人経済調査会)に掲載しております。

BIMを核とした生産管理システムの構築 ニューヨーク市デザイン・建設部

 ニューヨーク市の建設事業を担うデザイン・建設部(NYCDDC; New York City Department of Design and Construction)では、2014 年より建設IT研究者であるF.Penamora博士(前・コロンビア大学工学・応用科学部長)をコミッショナーとして迎え、BIMの導入を精力的に進めている。今回の訪問では、Penamoraコミッショ
ナーの他、K.F.Donnelly副コミッショナー、各担当者らからBIMの導入状況等について説明を受けるとともに、意見交換を行った。

BIM Guidelines(NYCDDC)

 NYCDDCでは、数年前より大規模プロジェクトを対象にBIMの導入を開始し、2012 年にはBIMガイドラインを作成し、モデリングの対象物とその詳細度LOD(Level of Development)を定め、受注者にはガイドラインに基づいたBIM 実行プランを30日以内に提出することを求めている。現在のガイドラインは主に建築物を対象としたものであるが、2016 年春に発行予定の「BIM Guidelines 2.0」ではインフラ構造物や施設管理への拡張を予定している。またレーザー測量の有用性についても理解がなされ、BIMとの融合についても取り組んでいる。教育訓練については、市独自に教育訓練プログラムは有しておらず、受注各社が独自で行っている状況である。ただし最近の米国の大学教育では建設マネジメントに人気があり、BIMに関する教育も盛んに行われており、基礎知識を持った技術者が輩出されるようになってきているとのことであった。

維持管理・サービスの一体化 マサチューセッツ州港湾局

 マサチューセッツ州港湾局 (Massport)は、ボストン地域の3空港と港湾の建設・管理を担っている。今回の訪問では、BIMを所管部局長のS. Sleiman氏からMassportの概要説明の後、L. Burdi副局長、D.ArcieroマネージャーからBIMのガイドラインの整備状況等について説明を受けるとともに、BIMに関する意見交換を行った。Massportでは3年前から、設計の正しい理解、設計変更・干渉等によるRFI( Request for Information)の減少、アセットマネジメントを目的にBIMの導入を進めている。2015年には「BIM Guidelines for Vertidcal and Horizontal Construction」を定め、Vertial(建築物)、Horizontal(インフラ構造物)の別、概算費用に応じたBIMの利用指針を定めるとともに、BIM実行計画(BIMxP)の作成方法、建築物に関するLOD(level of development)を定めている。また、2020年までのBIMのロードマップを作成し、今後、プロジェクトマネジメント、教育訓練、そして施設管理、統合的なアセットマネジメントに至るまでの目標を段階的に示している。また人とプロセス、技術のバランスを保つことが必要である
と考え、トヨタ生産方式に基づくプロセスマネジメント手法LeanをBIMと合わせて導入している点が大きな特徴となっている。

BIM Guidelines for V&H

BIMの流れと求められる3次元モデルの詳細度(LOD)Model Submissions

明確な実施目標と着実な積み重ね ウィスコンシン交通局南東地域(WisDOT SE)

CIMモデルの納品仕様

 WisDOT SEはウィスコンシン州南東地域を管轄しており、Zooインターチェンジ(IC)をはじめとした複数の大規模プロジェクトが集中している。
 第1日はWisDOTウォーケシャオフィスを訪問し、 B. Wallace局長、S.Schmit副局長からの組織概要の説明後、 各担当者からMDU (Method Development Unit)におけるCIMへの取り組み、 Zoo IC改築プロジェクトの概要説明、そしてZoo ICを中心とした南東地域の道路事業における
CIMへの取り組みについての情報提供を受けるとともに、意見交換を行った。
 第2日にはZoo IC現場事務所を訪問し、 R. Luck 建設長からの概要説明の後、3次元設計や文書情報の管理についての技術的情報に関する説明を受けるとともに、意見交換を行った。また同日午後には、工事現場および交通管制センターの視察を行った。
 WisDOT MDUは、州全体でのCIM(Civil Integrated Management)の導入のためのマニュアル等の整備を担当する部局である。 MDUでは3次元設計の有効性を高く評価し、2008年にAutodesk社のCivil3Dの導入、2013 年には”WisDOT Design Model”を定め、2014年からその運用を開始している。また教育訓練については、通常の講義形式で
は個人の習熟度の違い等により教育が難しいことから、ビデオ教材を用いたオンライン教育を導入し、作業分野ごとにカリキュラムを設定している。今後は、“Design Model”のさらなる整備を進めるとともに、その導入効果の検討、トレーニングコンテンツの改良、そして建設契約管理システムとの統合、ライフサイクルを考慮した情報モデルの開発を進めていく予定である。
 WisDOT SEでは、2013年にウィスコンシン大学と共同で3次元技術実装プランを作成し、3次元モデリング、干渉評価、可視化、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)の導入までを対象とした2015年までのロードマップを作成し、CIM導入を進めている。
 WisDOT SEの管内に存するZoo ICは、2本のインターステートハイウェイと1本のUSハイウェイが交差する平均日交通量35万台の大規模インターチェンジであり、道路構造改良のために大規模な改築工事を進めている。2012年に改築工事に着手し、2020年度に竣工を予定している。工事の実施においては、15 分の通行遅延を最大限度としたガイドラインを設け、日中の交通制限を極力避けるよう実施している。また工事による規制情報は、SNS等を含めたさまざまな媒体を通じて住民への周知を図っている。工事の遂行ではCIMを積極的に導入しており、工事契約時に必要とされる大量の設計図書が不要となること、3次元設計の導入により異なる工種間での干渉検出が極めて有効であることが示されている。またプロジェクト管理においては、さまざまな文書管理のシステム化を進めていることと、事業遂行において予算、スケジュール、変更管理、リスクマネジメント、ドキュメント管理等を含めた工程管理が重要であることが説明された。またCIM全体の調整役として“CIMコーディネーター”が重要な役割を担っている。

米国の流れ

 今回の調査を通じて、米国の公共事業発注機関でのBIM/CIMの先進的な取り組みの状況を把握することともに、それを進めるに当たってのさまざまな工夫や課題を把握することができた。Horizontalとも呼ばれる土木インフラに関する取り組みは、米国においてもまだ試行段階にあるが、Vertical(建築)でのBIMの急速な進展の影響を受けて、その整備は急速に進みつつあること、またBIM/CIMの導入のための技術者への教育訓練も一体としてロードマップに取り入れられていることが明らかとなった。

新たな生産管理システムへの移行

 米国では、5億ドル以上(または交通省の長官指定の)プロジェクトにはIPD (Integrated Project Delivery)が義務付けている。
 今回現地訪問した、「Zoo Inter-change」は、IPDの指定事業であるが、いくつかの理由により実施していないとのことであった。なお、今回調査した組織おける調達方法は、主に設計施工分離発注方式であった。これらの背景として、BIM、CIMの運用を始めたばかりであり、従来の生産管理システムとの融合または置き換えを進めている途中段階であることが挙げられる。
 しかしながら、BIM、CIMの利点を踏まえ、その効果を生かすための調達方法を取り入れるのは自然な流れと考えられる。なお、今回調査した組織の全てにおいて、BIM、CIMを取り入れた新たな生産管理システムを運用するにあたり、必須となる役割や部署が設置されているのが理由の一つでもある。

ウィスコンシン交通局南東地域のIPD指定事業

技術の進歩により求められる新たな役割と立場

 現在、われわれの日常業務において電子メールやインターネットの利用が一般的になっているが、これらの利用に当たり、企業内の情報システムの整備や管理を担う部局が組織されていることが多い。自らの企業活動の中で新たな技術や手法を組織的に導入する場合には、それらに対応した役割と立場が必要になるのは当然の流れである。BIMによる生産システムでも同様であり、今回、調査した組織でも、CIMに専門特化した新たな役割・立場として、BIMによる生産システムを管理する「BIM Manager」、既存システムとの親和性の確認やデータ交換を専門とする「BIM Coordinator」が配置されている。このようなBIMの専門職員の配置は、CIMを円滑に利用していく上で重要な役割を果たしており、今後、同様の試みは増加していくものと考えられる。

新たな役割と立場 BIM Manager等

>>>>