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CALS/EC効果的事例レポート

第11回
『全国第1位の市町村の電子納品普及率を支える高知県内の取組み』(2010/3/4掲載)
社団法人高知県建設技術公社 事務局次長 兼 企業研修課長
木村 東紀夫 氏
社団法人高知県建設技術公社 企画研修課 兼 技術支援第一課
課長補佐 小島 宏一 氏
いまや最終段階にさしかかった地方版CALS/EC。しかし、市町村レベルへの電子納品の普及については、まだこれからの段階という地方公共団体も少なくない。その中で、高知県では、高知県市町村CALS/EC推進検討会(事務局:高知県建設技術公社)に県内全市町村が参加し、市町村の電子納品普及率が全国第1位となっている。市町村の意欲をいかにして引き出して成果を上げていったのかなどについて、同検討会で主導的な役割を果された高知県建設技術公社の木村氏と小島氏にお話を伺った。

高知県内の建設行政を支援
小さいからこそ、動きやすい
「早い、安い、受けがいい」を目指したガイドライン
高知県と県内市町村のヘルプデスク
発注者が電子納品成果物を作成する研修
電子納品を進んで行う良い流れが生まれる


高知県内の建設行政を支援

Q. 市町村の電子納品を支援することになった経緯をご紹介ください。
A.
(社)高知県建設技術公社の写真
(社)高知県建設技術公社
当団体のミッションは、高知県の市町村における建設・建築分野の行政支援をさせていただくことです。具体例として、建設技術者の技術力を向上させていくための研修、品確法に基づく発注者の支援、高知県土木積算システムの運用管理、建築住宅行政の支援等の事業を展開しています。その意味で市町村の電子納品支援という業務は、通常の業務とは完全に合致しているものではなかったのですが、国の施策でもあるCALS/ECの普及にも寄与したいとの考えから、「市町村建設行政支援」を使命とした当団体の業務に位置付け、高知のCALS/EC実現をめざす高知CALS推進協議会の設立に参加。その幹事として活動していったのです。また、高知県では2002年にCADを導入しました。この時、技術者職員400人ほどを対象として、CADのスキルアップ研修が行われました。実はこの研修も当団体が受託して実施しています。当然ながら、電子納品ではCADのスキルアップも必要になってきますから、市町村の電子納品についても、私たちができる限りのことを支援させていただこうと考えたのです。
こうした経緯を経て、2006年には市町村CALS/EC推進検討会という組織を立ち上げ、当団体はその事務局として高知県の全市町村を対象に、アクションプログラムの作成や電子納品の普及をはじめとするCALS支援活動を展開していったのです。



小さいからこそ、動きやすい

Q. 市町村を対象とするCALS/EC推進組織を立ち上げた狙いは?
A.
左側:木村 東紀夫 氏、右側:小島 宏一 氏の写真
木村東紀夫氏(左)、小島宏一氏(右)
市町村サイドで電子納品を実施していく場合、市町村が単独で動くと、非常にコストがかかってしまうこともあるようです。実際、一つの市町村がアクションプログラムなどを立てて実施しようとして、結局数百万円というお金がかかってしまった…といった話を当時よく耳にしました。それならむしろ市町村の基準を一つにまとめて、共通した基準をベースに電子納品などを運用した方がコストを抑えられると考えました。
よく地方の町村のような小さなところはCALS/EC等に対する意識も低く、なかなか動かないと言われますが、逆に小さいからこそ動きやすい部分もあるのです。実際、私たちは、前述のとおり全市町村にご賛同いただき、2006年度に市町村CALS/EC推進検討会を立ち上げ、電子納品部会を作って活動を開始し、市町村の意識を高めました。翌2007年度には市町村の電子納品の試行運用が開始し、現在までに全34市町村中13市町村がガイドラインを公開しています。
ポイントは、とにかくまず全市町村を集め「CALS/ECとは?」、「電子納品とは?」を理解していただいたこと。そして、顧問として県や受注者の団体にも参加してもらい、さまざまな立場の意見を集約しながら展開の方向性を決定し、その上で実務レベルの話を詰めて、さらにヘルプデスクや研修できめ細かくフォローしていきました。
全市町村を集めたというと驚かれますが、もともと全市町村が当団体の会員なので、知らない関係ではなかったのです。はじめに、全市町村に対しメールで連絡してから、返信の無かった市町村には直接電話をして趣旨を説明するという、地味な活動の結果です。



「早い、安い、受けがいい」を目指したガイドライン

Q. ガイドライン策定についてお聞かせください。
A. まず、ガイドラインを策定する前に、担当者は、なぜガイドラインを策定するか、電子納品に取組むかを内部に説明する必要があります。でも、担当者は忙しく、説明をするための資料を作る余裕が十分ではありません。そこで、私たちは、電子納品をやる気にさせるための説明資料作成の協力をするなど、きめ細やかな対応をしています。
そして、ガイドラインについては、はじめに私たちの方で「こういう形にしよう」というベースになるものを作り、進めていきました。とはいっても、基本的にはいずれも高知県のガイドラインに準拠した内容です。もし高知県のガイドラインと市町村が運用するガイドラインにギャップがあったら、両方で仕事をしている受注者が困ってしまうでしょう。ですから、そこはできるだけ同じものにする方が良いし、同じにすれば早くでき、しかも作成コストも抑えられます。



高知県と県内市町村のヘルプデスク

Q. ヘルプデスクの運用についてお聞かせください。
A. 私たちで開設しているヘルプデスクは、県の職員、各市町村の職員のためのものです。県だけでなく、市町村のヘルプデスクも当団体が委託を受け、実費程度のコストで運営しています。
そこまで必要なのか?と思われるかもしれませんが、逆にそこまでやらなければ市町村レベルの電子納品はなかなか普及しません。実際、CADに関しての質問等も非常に多く、もしヘルプデスクがなかったら、「誰に聞いたらいいのかもわからない」状況が多々発生し、普及の大きなネックになっていたでしょう。ただ、CADについても、はじめは大変かもしれませんが、しばらくやっていくうちに、理解できるようになります。



発注者が電子納品成果物を作成する研修

Q. そうするとスキルアップのための研修も重要ですね?
A.
研修会の様子
研修会の様子
そのとおりです。研修自体も、とおり一遍のものではなく、「我がごと意識」を持って、タイムリーかつ実務に即した内容にしていくことを非常に重視しています。例えば、CAD研修に関してもCADベンダーに委託せず、当団体の職員が講師を務めています。ですからコストもかからず、必要な時に必要な場所でフットワークよく開催できるのです。内容については、毎回アンケートを取り、要望を集めて、例えば、「災害発生時はどの図面が必要」とか「縦横断図はこう書く」とか、徹底して現場業務に特化した実務的カリキュラムを練り上げます。
また、電子納品の研修でも、通常は発注者に対しては行わない電子納品成果物の作成を、私たちは2008年からあえて発注者にもカリキュラムとして提供しています。これも一般研修で「成果物の作成方法を知りたい」というリクエストがあったからで、実際、受注者の実務を理解することで、より理解が深まり、いろいろな判断も正確にできるようになると好評です。もちろん受注者に対する研修も行っています。
こういった内容だけに、講師を務める職員は勉強が必要で、準備も大変ですが、だからこそ人気も高くリピータも多いのです。現在も、どの研修もほとんど定員いっぱいかそれに近いレベルまで参加者が集まります。これには前述の市町村CALS/EC推進検討会という情報共有の場があるというのも大きな効果となっています。やはり、どの市町村も「他所に遅れを取りたくない」という気持ちがあるようですから。あと、市町村職員への人材育成補助金制度(こうち人づくり広域連合)を最大限利用しています。受注者向けには、高知県では比較的少ないCPD・CPDS(※)認定講習として開催しているというのも大きいです。


※CPD・CPDS… CPDとはContinuing Professional Developmentの略で、技術者の継続教育(制度)のこと。CPDSは、CPDにSystemをつけたもので、社団法人全国土木施工管理技士会連合会で使われている。



電子納品を進んで行う良い流れが生まれる

Q. 電子納品普及の手応えと今後の課題は?
A. 私自身は、市町村レベルでも電子納品の評判はけっして悪くないと感じています。最初は「わけのわからない面倒なことを…」と思っていた人たちも、きちんと研修を受けて実際にやってみると意外と簡単にできてしまう。しかも電子化されていますから、成果物もあとあと扱いやすい。自分でやればすぐにそれが理解できますし、高知県が早くからCALS/ECに取組んでいることもあって、受注者の方も省スペースやコストダウンを実感しているから電子納品をしたがる、という良い流れが生まれています。受注者から「いつ電子納品を始めるのですか?」と聞かれる市町村の発注者もいるようです。
現場のニーズに応え、実務に沿った研修を行い、コストを抑えながら、わかりやすいやり方で広げていければ、市町村にも必ず普及していくと思います。
一方、課題としては、やはり電子納品成果物データの保管管理システムとデータ自体の二次活用ですね。現状では、データはサーバーに入れてフォルダ分けして保存していますが、データベースとして活用するならそれなりのシステムが必要でしょう。
また、二次活用については、市の現場などから具体的な要望も出始めています。CADデータに限らず全体を整理して、各情報を幅広く利活用できる仕組みを考えていきたい。そして次のステップとして、入札事務や総合評価(プロポーザル)、台帳管理によるアセットマネジメントなど、市町村の建設行政全般においての支援を目指したいと考えています。



〈参考URL〉
社団法人高知県建設技術公社
http://www32.ocn.ne.jp/~gijutu_homepage/
高知県及び市町村の建設・建築行政の補完・支援を通じて、豊かな地域づくりを促進し、県民の福祉の向上と社会資本整備の推進に寄与することを目的としている社団法人。電子納品関係の講習以外にも、平成22年1月から高知県で開始された電子入札の操作講習などを含め、受発注者を問わず毎年多くの土木技術に関する研修を開催している。