Home > CALS/EC効果的事例レポート > 第10回

CALS/ECマガジン
CALS/EC効果的事例レポート

第10回
『「新潟県CALSシステム」の普及・活用によるCALS/ECの展開』(2009/3/27掲載)
新潟県
土木部 技術管理課 積算情報班
主任 小林昭規 氏
全国の各自治体のCALS/EC本格稼働への取り組みが進展しているなか、ASP方式を利用した独自の情報共有システムを中心とした、積極的な取り組みで注目を集めているのが新潟県である。広汎なフィールドにわたる情報共有を重視し、受発注者双方を幅広く巻込みながら進む、その着実な取り組みの経緯や背景、狙いについて、新潟県土木部技術管理課を代表して小林昭規氏にお話を伺った。

2001年度に始まった新潟県のCALS/EC
公共工事の流れに対応した「新潟県CALSシステム」
初心者ユーザーも違和感なく、手軽に使える電子協議システム
CALSシステ厶による業務の流れ
インターネット回線の速度が十分ではない地域への配慮
広汎かつきめ細かなCALSシステム利用者支援
今後の展望


2001年度に始まった新潟県のCALS/EC

Q. 新潟県のCALS/ECの取り組みについてご紹介ください
A.
新潟県CALS担当の皆様(中央が小林氏)
新潟県CALS担当の皆様
(中央が小林氏)
新潟県のCALSの取り組みの背景にあるのは、2000年度策定の新潟県長期総合計画「新潟新しい波」です。この計画において、情報通信ネットワークを活用した社会作りの1つとして電子県庁が構想され、2001年度、新潟県行政情報化推進計画と電子県庁アクションプランを策定しました。これが行政全般におけるIT化の基本方針となりました。CALS/ECへの具体的な取り組みとしては、同じく2001年度に新潟県CALS/EC整備基本方針を発表し、国と県及び建設業界団体等で組織する新潟県CALS/EC推進協議会を設立したのが始まりです。2002年度にはこの整備基本方針の実現のための具体的な実施計画や整備計画、市町村への支援策等を示す新潟県CALS/EC整備基本計画を発表しました。翌2003年度には、「教育・普及活動」、「ITインフラ整備」、「電子調達の実施」、「電子納品の実施」、「情報共有の実施」の5項目を柱とする「新潟県CALS/EC整備行動計画」(アクションプログラム)を発表しました。現在はこれに基づいた取り組みが進んでいます。このうち、「電子納品の実施」、「情報共有の実施」を実現する「新潟県CALSシステム」の導入が始まったのは2002年度です。この年、現場の課題抽出のためメールシステムでの実験を行いました。翌2003年度にはベンダー各社の既存システムによる実証実験を行い、システム構築事業者を選定しました。そして2004年度に(新潟)県仕様環境をシステム構築事業者が構築し、実証実験を行い、運用上の問題点を検証しました。翌2005年度から一部運用を開始し、徐々にその運用範囲を拡大しています。運用詳細は各部局により異なりますが、今年度(2008年度)の土木部は、工事1,000万円以上、委託100万円以上の案件を新潟県CALSシステムの適用対象として運用しています。



公共工事の流れに対応した「新潟県CALSシステム」

Q. 「新潟県CALSシステム」とはどのようなシステムですか?
A.
新潟県CALSシステムの概要
新潟県CALSシステムの概要
画像をクリックすると拡大画面が開きます

CALS運用マニュアル(案)
新潟県CALSシステムを
活用した業務プロセス

画像をクリックすると拡大画面が開きます
「新潟県CALSシステム」(以下、「CALSシステム」)とは、設計図書の配布から検査、納品、維持管理といった、公共事業執行の流れに対応した一連のシステムによって構成されています。
具体的には、電子閲覧システム、電子協議システム、電子検査ビューワ、電子納品システム、保管管理システムの5つです。このうち電子協議システムと電子納品システム、保管管理システムはデータ連携しているので、システムごとの二重入力を排除し、成果品情報の品質を向上させることができます。例えば受注者が最も利用機会が多い電子協議システムは、工事や業務委託において従来書面や口頭で行われていた受発注者間の指示、協議、報告等のやりとりを、インターネットを介して行うシステムです。
導入効果としては、システム経由での書類提出・決裁により対面打合せ回数は減り、協議・伝達の時間を短縮し、紙資料の整理・保存作業も軽減されます。また、移動機会が削減されるのをはじめ、作業効率化や間接経費の削減、工期短縮によるコスト縮減も期待できます。さらに品質向上に関しても、現場の共通認識が進むことによる監督体制の強化、情報共有の促進による協議過程の正確な管理や伝達、情報整理などの効果があるでしょう。
さらに工事完了時には、システムを通じ提出された工事関係書類(打合せ簿、写真等)を電子納品形式で成果品としてまとめることができるなど、電子納品成果物の作成支援機能も備えています。



初心者ユーザーも違和感なく、手軽に使える電子協議システム

Q. 電子協議システムの特長・強みはどのような点にありますか?
A. 電子協議システムはすでに年間2,000件もの案件で利用されていますが、これほどの普及・活用を可能にしたのは、まずこのシステムがインターネット環境のブラウザさえあれば利用できる、誰にとってもわかりやすいシステムだからでしょう。画面は受発注者が慣れ親しんだ紙の帳票のイメージが再現され、機能も書類の作成、提出から決裁、スケジュール調整、電子納品成果物作成まで、実際の業務の流れに沿ってメニュー化されており、初めての方でも違和感なく利用できるようになっています。
このシステムを利用することにより、日々の書類提出や決裁を行うことが、そのまま電子納品成果物の作成につながるという点も大きいですね。受注者は電子納品作成支援ソフトを購入する必要がなく、作成に関わる作業も大幅に軽減でき、しかもミスのない高品質なものを作れます。発注者にとっても、書類の承認や差戻しなど決裁を簡単な操作で行えますし、電子納品成果物の質が高まることから検査時の確認作業などの負担も軽減できます。
なお、情報共有システ厶については国土交通省から「工事施工中における受発注者間の情報共有システム機能要件 平成20年12月版(Rev.2.0)」が出されておりますが、CALSシステ厶は、この機能要件のほぼすべてに対応済みです。



CALSシステ厶による業務の流れ

Q. CALSシステ厶による業務プロセスはどのような流れになりますか?
A. 通常運用と特別運用がありますが、まず通常運用の流れを紹介します。 計画中のプロセスですが、まず設計/発注フェーズにおいて、発注者が確定した発注図等を受注者が電子閲覧システムを通じて取得し、入札の諸資料とします。入札契約後は発注者の指示に従い、受注者がCALSシステ厶の利用を申込み、システムの利用が始まります。次に、受発注者による事前協議で「電子納品に係わるチェックシート」を用いて電子納品対象書類を決定します。
いよいよ施工が始まると、指示、協議、報告等のやりとりは基本的にすべて電子協議システムで行われ、打合せ簿などの工事書類もシステ厶上で作成します。発注者もシステムを使って工事書類をチェック・監督します。一方、受注者は施工と並行して、システムを使って打合せ簿や工事写真、図面等の電子データを作成します。検査前になると内容を確認のうえ、電子納品システムに登録します。
そして、受注者はすべての電子データ、つまり電子納品成果物の登録完了後、このデータをダウンロードしてCD-Rを作成、提出します。受取った発注者はウィルスチェック、内容確認、各要領(案)との対比などを検査します。そして、検査終了後は、発注者の指示により受注者がシステム完了手続きを行い、ヘルプデスクからのシステム利用完了通知をもって完了します。
新潟県CALCシステムの特長
新潟県CALSシステムの特長
画像をクリックすると拡大画面が開きます
なお、電子協議システム/電子納品システムで扱われた電子データは、以後の公共工事で活用されることになります。ただし、現状は、維持管理業務で使用されるスキームがないこと、各組織で保有している維持管理系システムとの連携がなされていないこと、将来的に維持管理業務で利活用が必要なデータと不必要なデータの選別がなされていないことから、サーバー蓄積量の圧縮と電子データ管理の効率化を図るため、電子納品物の保存基準の策定及び保存基準(案)に基づいた情報管理方法の確立を予定しています。



インターネット回線の速度が十分ではない地域への配慮

Q. もうひとつの特別運用とはどのようなものですか?
A. 特別運用は、図面・写真などの大容量電子データについて、インターネット上にあるCALSシステムを経由せず、完成検査時に提出する電子納品媒体の中に付加するというものです。この特別運用は、インターネット回線の速度が十分ではないナローバンド地域では、処理速度がユーザーの要求に応えきれない場合があるので、ブロードバンドが整備されるまでの暫定措置です。ただし、打合せ簿などの少容量データについては、CALSシステムを利用することとしています。



広汎かつきめ細かなCALSシステム利用者支援

Q. 利用者支援活動の現状と全般的な課題についてご紹介ください
A. システム利用者の支援、普及・啓発活動ですが、まず受発注者双方に向けた講習会を実施しています。特に受注者には、個々のCALS/ECの知識に合わせたレベル別の講習会を行い、練習用の専用Webサイトも公開しています。また、受発注者双方にアンケートを行い運用上の問題点を収集、次年度運用の参考資料に活用しています。操作方法等の問合せにもヘルプデスクを設置して対応しています。さらにそれらの問合せも集計分析してFAQを作成するなど、幅広くきめ細かな支援が特徴です。また、CALSシステムの運用は段階的に広がっていますが、次年度運用を開始する範囲に対しては試行運用を行っています。運用に関する問題点を事前に整理し、習熟度向上を図るわけです。 次に、課題としてはまず、特別運用のところでも話しました、ネットワーク環境の問題があります。この問題については、特別運用を実施するとともに、回線環境の改善やシステムのユーザビリティ向上に努めています。また、電子納品の対象となっていて、かつ電子検査の対象となっていない案件については、電子納品のための電子媒体に加え、検査時のための紙資料の2種類が必要となります。この二重負担を解決するため、電子検査の拡大を進め、提出書類の簡素化を進めていく予定です。



今後の展望

今後の展望としては、利用者の負担軽減及び利用者の満足度向上の実現や、公共工事に係る各システムの構成・運用の効率化、維持管理を見据えた業務プロセスの構築・全体最適化などを実施し、更なるコスト縮減を実現したいと考えています。新潟県では効果的な業務プロセスを実現するために、今後も改良を続けていきます。興味のある方は、新潟県までお問合せください。(2009/3/27掲載)



〈参考URL〉
新潟県CALS/ECホームページ
http://www.pref.niigata.lg.jp/gijutsu/1197303328963.html