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CALS/EC効果的事例レポート

第9回
『情報化施工の人材育成』(2009/3/17掲載)
社団法人日本建設機械化協会
施工技術総合研究所
研究第三部 次長
上石修二 氏
平成20年7月、国土交通省は「情報化施工推進戦略」を発表し、建設分野における情報化施工の本格的な普及に踏み出した。その戦略の中で重点目標として上げられているのが、情報化施工を担う人材の育成である。社団法人日本建設機械化協会 施工技術総合研究所では、昨年夏より、この情報化施工に関わる人材育成に取り組んでいる。担当する同研究所の上石修二氏にお話を伺った。

情報化施工推進戦略の背景とその概要
情報化施工の導入で実現される具体的な効果
情報化施工の流れとそこで必要なさまざまな技術
情報化施工の実践を担う人材を育成する
実機を用いたMC実習もある充実のカリキュラム


情報化施工推進戦略の背景とその概要

Q. 「情報化施工推進戦略」が生まれた背景にあるものは?
A.
(社)日本建設機械化協会 施工技術総合研究所の写真
(社)日本建設機械化協会
施工技術総合研究所
例えば生産効率向上の問題や熟練技術者・技能者の不足、施工現場の安全確保、地球温暖化問題(CO2削減)、さらには社会資本の補修・維持管理費の増大など、現在わが国の建設事業にはさまざまな課題が取り巻いています。これらの課題に対して、国土交通省はさまざまな取り組みを進めていますが、施工の分野では、ICTを活用した情報化施工が大いに期待されています。しかし現状は、情報化施工は一部でこそ実用化され始めてはいるものの、まだなかなか普及には至っていません。そこで、国土交通省では情報化施工の戦略的な普及方策が必要と考え、その普及に向けた課題を整理しつつ重点目標を掲げて、これを実現していくためのロードマップを発表しました。これが昨年7月に国土交通省が発表した「情報化施工推進戦略」です。
この戦略の中で掲げられた重点目標では、情報化施工の普及を進めるための目標として、大規模な工事については2010年度までに、中小規模の工事については2012年度までに、情報化施工を標準的な方法として位置づけ、併せてシステムの普及や人材の育成を図っていくこととしています。なお、国土交通省のホームページに、情報化施工推進戦略とこれに関連する資料も掲載されています。自由にダウンロードすることができますので、詳細はぜひそちらでご確認ください。



情報化施工の導入で実現される具体的な効果

Q. 情報化施工の導入によりどのような効果が期待できるのでしょうか?
A. まず建設機械施工や管理の効率化ですが、同推進戦略では、情報化施工を活用した技術の代表として以下のような例が挙げられています。1つ目は建設機械の3次元マシンコントロールです。設計データや現場計測データを現場の建設機械に入力し、施工に活かしていく方法ですね。2つ目はトータルステーション(TS)やGNSS(アメリカのGPSのほかロシアのGLONASS、EUのGALILEOなど)による出来形管理。これはTSやGNSSなど進化した最近の測量技術を活用した測量結果と設計データを現場で比較し、出来形管理に活かそうというものです。
情報化施工を支える技術:業務プロセス改善
情報化施工を支える技術
業務プロセス改善

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次に期待される効果は、現場で得られる情報の高度化です。出来形管理もそうですが、これまでの建設工事では、天象地象に代表される不確定要素を盛り込んだ形で、安全率の導入など余裕を見込んだ管理を行ってきました。これが情報化施工を行うことで、その場で精度の高い情報を取得することが可能となり、現場で実務に携わる技術者の的確な判断を引き出すことができます。大規模な工事の場合は、ICTを活用した新しい品質管理手法により施工と同時に施工品質もモニタリングを進め、最終的には統合的な施工管理も可能になっていくでしょう。またこのようにして得られた精緻な施工情報を次の維持管理段階へ引き渡すことも容易に可能となります。
こうした情報化施工の導入効果は、品質確保や作業の効率化、施工精度の向上などはもちろん、作業の安全性向上や燃料消費の抑制、ひいては環境問題にも効果があると考えています。



情報化施工の流れとそこで必要なさまざまな技術

Q. 情報化施工を支えている技術はどのようなものがありますか?
A. 前述のとおり、情報化施工の導入により、建設工事の業務プロセスは大きく簡略化されます。土工工事で言えば、従来の流れでは、まず設計図面から座標計算を行い、測量して丁張りを設置、この丁張りに合わせて施工し、検測を繰り返して整形、出来上がったら品質・出来形管理をチェックして完了します。情報化施工により、このうちの測量や丁張り設置、検測や品質・出来形管理などの作業は不要となります。この新しいプロセスを支える技術は、例えばマシンコントロールに関していえば以下のようなものがあります。GNSSによる位置座標データと照合しながら設計データから最適なブレードの高さ、位置、勾配などを読み取って、ブレードの高さその他をコントロールし、施工していくための技術。そしてその結果を測量装置で計測し、再びフィードバックするための技術……。
情報化施工を支える技術:マシン・コントロールに関する技術
情報化施工を支える技術
マシン・コントロールに関する技術

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すなわちその根幹には、設計情報を利用する技術や情報処理技術、そしてこれらとマシンコントロールを結ぶ制御技術、現場で精密な計測を行う測量技術、データを運ぶ屋外通信技術などがあり、これらが多彩に組合わされてマシンコントロールという情報化施工が実現されているのです。さらに人間の関わりということでいうと、そこにはデータを取る測量者、指示を出す施工管理者、指示を受けて施工するオペレータの3者による三角形のネットワークがあります。この三角形がICTで結ばれることで、マシンコントロール技術が実現されたともいえるでしょう。
したがって、このようなシステムを使いこなしていくためには、前述の3者全体の技術レベルの向上が必要となります。



情報化施工の実践を担う人材を育成する

Q. 貴団体が実施する情報化施工研修会の目的とその目標は?
A.
情報化施工研修会の様子
情報化施工研修会の様子
前述の「情報化施工推進戦略」の中で、普及のための重点課題の一つとして人材育成が上げられていましたが、このことを受けて、日本建設機械化協会では、昨年7月から「情報化施工研修会」を実施しています。実際には昨年は7月から2月まで計5回にわたって実施し、現在はさらに第6回目を2009年5月に開催する準備を進めています。この「情報化施工研修会」の目的は、3次元データを利用した建設機械制御に関する基本的な教育を行うことにより、情報化施工を実践的に活用できる技術者を育成することです。前述のとおり、情報化施工にもさまざまな技術がありますが、この研修会では特にマシンコントロールのための制御データの作成と実際の3次元マシンコントロール、TS/GNSSによる出来形管理などのICT施工管理をテーマとしており、これらを現場で実践的に活用できる人材の育成を進めています。そのため、受講対象者としては現場管理者の方、機械オペレータ、またマシンコントロールの体験/習得を希望される方などとしており、工種は道路路盤工となっています。また、実際に研修が開催される施工技術総合研究所(静岡県富士市)では、1人1台のパソコンを用意した研修室はもちろん、広大なテストフィールドや建設機械実機もあり、座学だけでなく、グレーダやブルドーザを用いたマシンコントロールの実習カリキュラムも学ぶことができます。



実機を用いたMC実習もある充実のカリキュラム

Q. 「情報化施工研修会」の内容を具体的にご紹介ください
A. 研修は1日の「体験コース」と2日間の「実務コース」の2コースがあり、各定員20名で募集・開催しています。実務コースを例にカリキュラムの内容を紹介しましょう。まず具体的な研修目標は3つ。1つ目は設計図面を読み、マシンコントロール用制御データの作成をマスターすること。次に測量データを使ってデータを作成し、出来形管理の基本を習得すること。そして実機を用いた実習でマシンコントロール施工の基本を習得する、という3つです。MCデータの作成は研修初日のカリキュラム。午前中、情報化施工とマシンコントロールに関する講義を受け、午後からMCデータ作成の流れ、設計図面の見方などを学びます。そののち実際にMC用データ(三角メッシュデータ)を作成。2日目の午前中も引き続きMC用データ(3次元路線データ)を作ります。そして2日目午後から、ハード設定に関する講習を受け、いよいよフィールドに出てマシンコントロールの実習が始まります。100メートルほどの2つのコースで、自ら作成したMCデータを使ってグレーダやブルドーザなどの実機を動かすのです。さらにその結果はトータルステーションなどで計測しTS出来形管理も体験します……。当研究所ではこのような研修を昨年4回実施し、総計60名の修了者を輩出しました。もちろん今年も5月、7月、9月に開催を予定していますが、1〜2ヶ月に1回程度開催していく方針です。いずれ公的制度として確立したいですね。
情報化施工とは、機械に任せられるところは機械に任せつつ、現場から得られる情報の高度化によって、技術者の能力を最大限に引き出すものです。また維持管理にも適用可能な精緻な施工情報を取得するためには、計画も管理も的確でなければなりません。
ですから、私たちが育てているのは、単なるマシンオペレータではありません。機械任せではない現場力が身についていないと情報化施工オペレータたり得ないと考えています。



〈参考URL〉
情報化施工推進戦略
http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo15_hh_000009.html
「情報化施工研修会」の案内
http://www.jcmanet.or.jp/