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CALS/EC効果的事例レポート

第8回
『受注者の意欲を活かす長野県の電子納品』(2009/2/27掲載)
長野県
建設部 建設政策課
技術管理室 入札・契約班 主任 長崎宏昭氏
CALS/EC地方展開の目標年次である2010年を前に、各自治体による電子納品普及への取り組みも本格化している。むろん公共事業の効率化やコスト縮減、品質確保など、各自治体の目標は同じだが、個々の具体的な取り組み策には違いがある。中でも受注者の意欲を引き出しそのスキルを高めながら、着実な成果を上げているのが長野県だ。同県で電子納品普及を主導している、建設部建設政策課の長崎宏昭氏に第4回「ITアドバイザー制度」の紹介に続いて今回、「受注者の意欲を活かす長野県の電子納品」についてのお話を伺った。

受注者個々のスキルに応じた納品方法を採用
独自の施策の背景にある電子納品導入の3原則
建設工事案件の必須書類は基本的に、工事管理ファイルのみ
電子納品の初級者から上級者まで、幅広い支援と評価を実施
電子納品されたデータの利活用が大きなテーマ


受注者個々のスキルに応じた納品方法を採用

Q. 長野県の電子納品の取り組みの特徴をご紹介ください
A.
長野県庁
長野県庁
長野県の電子納品の目的は、電子化ではなく、効率化です。
まず、納品の方法ですが、平成18年度までは発注者が電子納品の対象となる案件及び対象書類を指定し、受注者が指定された成果品を作成して納品するという一般的なやり方を行っていましたが、平成19年度から全案件の実施に合わせ、案件に関わりなく受注者自身が電子納品の対象書類を選択できる、というやり方に転換しました。この方法は、発注者にとっても導入しやすく、また、受注者にとって、その意欲と技術を活かせる方法となっています。
さらに長野県では、電子納品の普及を推進するための独自の取り組みを行っており、この点も特徴の一つといえるでしょう。例えば、電子納品推進事業では、工事の着手時及び納品前の受発注者協議に、電子納品の専門家をアドバイザーとして協議に参加させ、電子納品の円滑な実施を支援しています。これにより、電子納品を初めて経験する方でも、専門家のアドバイスを受けながら電子納品に取り組めます。また、各受注者の電子納品への取り組みに対する評価を行っています。電子成果品や電子納品資格者に、成績評定や総合評価の価格以外の加点をすることで、受注者の電子納品に対する意欲を高め、技術の向上を図っています。いずれも電子納品の普及において大変有効な方法となっています。



独自の施策の背景にある電子納品導入の3原則

Q. 取り組みの基盤となっている考え方はどのようなものですか?
A. 長野県には電子納品の導入における3つの基本的な考え方があります。1つ目は先述の「電子納品は目的ではなく、業務を効率化するための手段である」ということです。手段というのは本来選べるものです。実際に、電子納品を進んで行う方と、できるだけ避ける方がいますが、電子納品を避けるというのは、現状より非効率にしないために電子納品しないということ、言い換えると、その方にとっては、電子納品しない方が効率的であるということです。つまり、電子化によって効率化できるかどうかは、技術者のスキルや個々の状況によって異なるのです。そこで、電子納品の対象書類については業務の効率化が図られると判断したものを受注者が自由に選べるようにしています。これにより、無駄な電子データを作らされるという問題は生じません。
2つ目は、「電子成果品の作成で最も重要なのはデータの標準化である」ということです。書類をパソコンで作ったり、デジカメで写真を撮ったり、いわゆる単なる電子化というのは、通常の仕事の中で既に行われていますが、公共工事のライフサイクルに渡って、すべての関係者間で情報を共有するためには、標準化されたデータである必要があります。
長野県協議チェックシート
長野県協議チェックシート
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このため、対象書類はすべて国土交通省の要領・基準に則って作成しており、県としての独自ルールは設けていません。地方の自治体が独自の基準を作り、維持していく負担、また、受注者が、自治体個々に対応を求められる負担はありません。
3つ目は、「電子納品に対する能力を技術力として評価する」ということです。土木の世界で技術力という場合、一般的には工学的な専門性のことをいいますが、電子納品に対する能力についても、公共工事の生産性向上に必要な技術力として評価し、また、業界全体の経験不足を補うために、資格や経験を持つ技術者を活用して初級者に対する支援を行っています。これらの考え方に基づき、電子納品の導入を進めているところです。



建設工事案件の必須書類は基本的に、工事管理ファイルのみ

Q. 「スキルに応じた納品」の実際の運用についてご紹介ください
A. 長野県は平成19年4月より工事・委託とも全案件を対象に電子納品を実施しています。先述のように要領・基準は国土交通省版を準用しています。ただし、着手時及び納品前協議に使う協議チェックシートだけは県独自のものを用いています。
電子納品の適用に当たり、工事案件は対象案件と試行案件に分けていまが、対象案件(試行案件以外のすべての案件)において、必須書類は基本的に保管管理システムへの登録に必要な工事管理ファイルだけで、他の書類はすべて任意です。また、試行案件(800万円以下の土木一式工事、年間500件程度)については、小規模事業者が多いため、必須書類は無しで従来どおりの紙納品の選択を可としています。ただし、これは対象案件に移行するまでの経過措置であり、紙納品であっても事前協議は必須とし、「電子納品というものはこういうものだ」ということを知ってもらうようにしています。
また、委託案件はすべて対象案件ですが、こちらは業務管理ファイルと、設計施工フェーズで提供するための測量成果データのみを必須書類にしています。このように、ほとんどの書類を任意としているため、電子納品されないのではないかという声も当初はあったのですが、実際には多くの案件で工事写真や報告書、図面等が納品されています。強制されなくても、自らの判断で選択し、納品してくる受注者の意欲、これがとても大切なことだと考えています。



電子納品の初級者から上級者まで、幅広い支援と評価を実施

Q. 電子納品の支援と評価の仕組みについて詳しくご紹介ください
A. 受注者の電子納品スキルは個々に違うため、初級者向けから上級者向けまでスキルに応じた支援と評価の仕組みを用意しています。
その中で、初級者向けの支援として先述の電子納品推進事業があります。推進事業に指定した工事には、特記仕様書への明示とITアドバイザーの派遣経費を計上し、着手時及び、納品前の2回の協議にITアドバイザーが立ち会って、電子納品に関する助言・指導を行うというものです。派遣の業務は、あくまで助言・指導であり、代行ではありません。ここで、ITアドバイザーとういのは、「CALS/ECインストラクター等の有資格者又は同等の知識を有する者で、公益的な視点で電子納品をサポートできる技術者」と定義しています。長野県では、中小建設業のIT化の支援を目的としたNPO団体がございまして、そこにITアドバイザーが40名ほど所属しています。協議時に専門家からの助言・指導を受けることで、初めての受注者さんでも、協議を円滑に行い作業の無駄や手戻りをなくすということ、また、同時に、工事写真等を必須書類とすることで、スキルアップを図ることを目的としています。また、こうした支援の不要な上級者については、協議の上、派遣経費を減額します。なお、この推進事業を実施した受注者にアンケートを取りました。結果は、おおむね「協議がスムーズに進んだ」「わかりやすかった」との回答をいただいています。
推進のためのしくみ
推進のためのしくみ
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次いで、電子納品に対する評価ですが、まず「工事・業務成績点」に電子納品への取り組みに関する加点項目を設けました。それから、「電子納品資格者」に対して入札参加資格や総合評価で加点しています。また、長野県が毎年行っている優良技術者表彰において、技術力の評価項目に電子納品に関する取り組みを設けています。これらは、入札参加資格の主観点数や総合評価の評価項目となっていて、会社の格付けや総合評価の価格以外点のアップに繋がります。意欲と技術を持つ企業、技術者を評価し、活かすことで、CALS/ECの推進、ひいては、建設業の生産性の向上を実現していくことが目的です。



電子納品されたデータの利活用が大きなテーマ

Q. 今後の電子納品支援の展開についてご紹介ください
A. 電子納品の普及にあわせ、今後は、CAD図面と情報共有システムの利用を進めていきたいと考えています。まず、CAD図面は、公共工事のライフサイクルの中で最も利用価値の高いデータであり、交換、利用を進めていきたい。そのために、設計委託する図面の電子納品の必須化、入札公告時の電子図面の配布、施工中の電子図面の交換、これらの施策を今後進めていく予定です。特に、入札公告時の電子図面の配布を電子納品形式で行う仕組みを工夫しているところです。
次に、情報共有システムの利用ですが、普及のためにはシステ厶の有効な使い方を示していくことが必要だと考えています。また、協議書に電子データや電子印などを使うための共通仕様書の変更等、制度面の整備も進めたいと考えています。
最後に、電子納品の推進に当たっては、電子化ではなく、効率化を目的とするという長野県の導入方針を今一度、申し上げたいと思います。(2009/2/27掲載)



〈参考URL〉
長野県におけるCALS/ECの取組み
http://www.pref.nagano.jp/doboku/kanri/gikan/system/cals/cals-main.htm