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CALS/EC効果的事例レポート

第6回
『電子入札システムの利用効果の検証
−三重県のアンケート調査から見えてきた利用状況とメリット−』(2007/3/29掲載)
三重県県土整備部
公共事業情報化プロジェクト
主査 森嶋正人 氏
2005年10月に三重県では電子入札の全面適用を開始した。そして、この全面適用の開始から1年が経過した2006年11月、三重県県土整備部は、電子入札システム利用者を対象とする大規模なアンケート調査を実施し、結果の集計/分析を行った。地域の電子入札システム利用者が電子入札をどのように受け止めているのか――三重県県土整備部の公共事業情報化プロジェクト主査、森嶋正人氏にお話を伺った。

本運用後1年で99.17%の業者が電子入札を利用
普及のカギは、地場の小規模業者に対する徹底した啓蒙活動
本運用開始後1年が経過した利用者の「本音」を聞くために
電子入札を予想以上に前向きに受け止めていた利用者たち
電子入札の導入はITリテラシー底上げの大きな原動力


本運用後1年で99.17%の業者が電子入札を利用

Q. 三重県の電子入札について導入経緯とその特徴をご紹介ください
A.
三重県庁
三重県庁
三重県のCALS/ECは2000年に動き始めました。そして、翌2001年に「三重県版CALS/EC整備基本構想」(2001年12月公表)と、これに基づく「三重県CALS/ECアクションプログラム」(平成2002年3月公表)が策定されました。そして、2002年から電子入札コアシステムによる実証実験も始まりました。その結果を踏まえて、電子入札コアシステムに三重県としてのカスタマイズを加えた「三重県電子入札システム」を開発。この「三重県電子入札システム」を用いて、2003年の10月より、一部(工事8,000万円以上、コンサル4,000万円以上)で電子入札の本運用を開始しました。さらに、2005年4月からはコンサルに関しては全件、また同じく10月からは工事についても全件で電子入札を適用しています。システムは、前述の通り電子入札コアシステムがベースで、特徴としてはICカードを複数枚利用できること、また、各種の電子入札関連の書類様式を入札情報サービスでダウンロードできることなどが挙げられます。利用状況に関しては、利用者登録数は今年2月末現在で2,619社。内訳は工事関連業者が2,116社で、コンサルが503社です。また、案件数は1月末の時点で工事が1,765件、委託案件が1,050件、総計2,815件となっています。そして、電子入札への参加率ですが、1月末で電子入札が25,355人、紙での入札は212人でした。従って、いまや99.17%もの方々が電子入札にご参加いただいている、ということになっています。



普及のカギは、地場の小規模業者に対する徹底した啓発活動

Q. 電子入札の普及を進める上で、どんなことが課題となりましたか?
A. 実は私はシステム畑の人間ではなく、以前は入札事務の仕事を担当していました。つまり、紙による入札の現場はよく知っており、だからこそプロジェクトが始まった当初は、実は相当不安――というのが正直なところでした。私が異動してきたのは2004年4月ですから、すでにシステムは出来上がり、一部で本運用も始まっていたころです。この段階では8,000万円以上の工事が対象でしたから、応札するのは規模の大きな業者がほとんどでした。こういった業者さんは、その多くが国土交通省直轄の公共工事などで電子入札も体験済みですから、ほとんど不安はありませんでした。しかし、それ以下の小規模の事業者さんについては、そうはいかないのではないか、と正直危ぶむ気持ちもあったのです。というのも、地場の小規模事業者さんの場合、電子入札どころかパソコン自体が初めて、という方が少なくなかったからです。そこで三重県としてはまず、小規模事業者の方々を対象とするCALS/EC電子入札の普及に向けた啓発活動に力を注ぎました。春と夏に県内各庁舎で延べ23回にわたりCALS/ECの地域研修会を実施、電子入札の紹介からデモ、そして、具体的な利用法などを紹介していきました。それでも、ぎりぎりまでは利用者登録が広がらず、非常に不安だったのですが、本運用直前に急上昇し、数字的にはなんとか大半が移行できたのかなと思っています。もちろん本運用が開始された当初は、ヘルプデスクは常時フル回転という状況でしたが、これも最近はだいぶん落ち着いてきたようでひと安心しています。



本運用開始後1年が経過した利用者の「本音」を聞くために

Q. 今回のアンケート調査の趣旨と概要をご紹介ください
A. 前述の通り、とりあえず数字的には電子入札の本運用は進んでいるわけですが、では1年を経て、実際にこれを使っていらっしゃる業者の方々は、どのように感じていらっしゃるのか。また、どのような環境でこのシステムを使用していらっしゃるのか。システム操作などに関しての問題点、要望などがあるのではないのか――こういったことに関して、できるだけ多くの利用者の方々からさまざまなご意見をいただき、システムの今後の改善に向けて参考にしていきたいと考えたのです。実施したのは、昨年の11月14日から一週間。「三重県公共事業電子調達システム」のWebページおよび各発注窓口でアンケート用紙を配布しました。
森嶋正人氏
森嶋正人氏
アンケートをお願いしたのは総計2,589件で、うちご回答いただいたのが945件にのぼります。つまり約36.5パーセントという回答率になりますね。むろん他県においても同様の試みが行なわれた例があるようですが、聞いた限りでは、それら他県の結果と比較しても、三重県における回答率は非常に高いといってよいのではないでしょうか。実際、選択式の回答部分だけでなく、ご感想やご要望、ご不満などに関する具体的なコメントも非常にたくさんいただいており、事業者の皆さんもかなり関心をお持ちいただいている問題なのだなと、たいへん心強く感じました。そこでこの2月には、このアンケート結果を集計したものをグラフなどにまとめて、電子入札の利用者を対象に広く公開しています。



電子入札を予想以上に前向きに受け止めていた利用者たち

Q. 結果はどのようなものでしたか?またそれをどのように受け止めましたか?
A. もちろん厳しいご意見やご要望もたくさんありましたが、総じて思っていたよりずっと嬉しいお声が多かったと感じています。研修会の質疑応答やヘルプデスクでのお問い合わせなどでは、厳しいお言葉をいただくこともありましたので、やや覚悟していた部分もありました。ところがふたを開けてみると、予想していた以上に多くの方が電子入札を前向きに、好意的に受け止めてくれていることがわかりました。これは嬉しい驚きでした。特に嬉しかったのは、「電子入札の利用効果」に関する項の集計結果です。「電子入札の導入についてどのようにお感じですか?」という問いに対し、64.4%の方が「電子入札の方がよい」と答えてくださいました。また、実際の効果に関しても、「電子入札を利用する前と比べて入札事務の効率は良くなりましたか?」の問いに「大変良くなった」「良くなった」合わせて61.4%の方が肯定的に答えていますし、「電子入札を利用する前と比べて入札参加のための移動時間は短縮しましたか?」の問いには「大幅に減少した」「減少した」合わせて84.1%に達しました。この数字を見た時は、本当に電子入札を導入して良かったな、と思いましたね。反面、「ログインの失敗を繰り返してICカードを失効してしまった」経験をお持ちの方が5.9%もいらっしゃったのは予想外でした。ヘルプデスクの状況などを見ても、現在はそういうことは無くなっているようですが……反省材料の一つですね。



電子入札の導入はITリテラシー底上げの大きな原動力

Q. 今後の展開に関して、どのようにお考えですか?
A. もちろんアンケートのご回答を通じていただいた、さまざまなご指摘を活かして、システムをさらに洗練させ、使用者にとって簡便なものにしていくことが第一のミッションです。ちなみにいちばん多かったご要望は、システムの稼働時間をもっと長くしてほしいという声ですね。現状は朝8時半から夕方17時までで、これはヘルプデスクの稼働時間に沿ったものなのですが、地場の中小業者さんの場合、昼間は現場で作業を行ない、夜に事務所に帰ってきてから電子入札をしたいという声が多いのです。もちろんすべてのご要望にお応えすることは現実には難しいのですが、いただいたご意見は、少数意見も含めてすべてきちんと受け止め、議論し、検討していきます。また、直近の問題としてはWindows Vistaへの対応があります。すでにお店で売られているパソコンは全部Windows Vista搭載機ということになるわけです。事業者が新しいパソコンを導入したらシステムが使えなくなる、というわけにはいきませんから、これもできるだけ早く対応していく必要があると考えています。――いずれにせよ、今回のアンケート結果を見て、電子入札の導入が、地場の建設業者のITリテラシーの底上げという点で非常に効果的だったとあらためて感じましたね。実際、電子入札をきっかけにパソコンを導入し、インターネットを使い始めた方が非常に多く、逆にこれがなければ地場の建設業者のIT化はまだまだ遅れていたでしょう。しかしここまで来れば、ITを積極的に活用しようという動きも生まれ、効率化やコストダウンの意識も高まってくるはずです。その意味で、電子入札の導入は最適な「第一歩」だったといえるでしょう。(2007/3/29掲載)