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CALS/EC効果的事例レポート

第5回
『発注者による電子納品データの有効活用
−下水道台帳情報システムにおけるCADデータのリサイクル−』(2007/2/26掲載)
東京都 下水道局
施設管理部 管路管理課
施設情報管理係 主任 梶井暁子氏
東京都下水道局では都の下水道施設の効率的な維持管理のため、GIS技術を応用した下水道台帳情報システム「SEMIS」を開発し、運用している。特に同局では、2003年度にSEMISのCADデータと下水道管渠設計CADを連携/活用するため、SEMISにSXF対応機能を整備。電子納品データおよびCADデータのデータリサイクルを推進していている。このSEMISと電子納品データの活用について、同局施設管理部の梶井暁子氏にお話を伺った。

日本最大規模の下水道施設を管理する下水道台帳
「SEMIS」に蓄積された膨大なデータを活用するために
SXF対応機能によるSEMISのデータリサイクル
CADデータによるデータリサイクルの流れ
SEMISのデータリサイクルから生まれるメリット


日本最大規模の下水道施設を管理する下水道台帳

Q. 東京都の下水道事業と下水道台帳情報システムをご紹介ください。
A.
梶井暁子氏
梶井暁子氏
東京都下水道局では、23特別区の5万7,839haを対象に公共下水道の建設と維持管理を行っています。区部の下水道は昭和30年代から本格的な普及事業が始まり、1994年度末に普及率は概成(※1)100%に達しました。その下水道管渠の総延長は約1万5,000km、マンホール約48万箇所、公共ます約185万箇所、処理能力は日量約634万立米を有する日本最大規模の施設です。これだけの規模の施設を図面化すると1/500スケールA2判の施設平面図で約1万5,000枚にもなり、これを修正、追加しながら管理していくのは非常に困難な作業です。そこで下水道局では早くから下水道台帳の整備に取り組んできました。実際、下水道局が発足した1962年頃から既に台帳係があったそうです。当時はもちろん、紙の図面で保管していましたが、下水道普及率の拡大に伴い手書きでの台帳管理が難しくなってきたため、まず1980年度に施設の調書の電子データ化を開始しました。2年後にマッピングシステムの開発に着手し、1985年度に下水道台帳情報システム「初代SEMIS」(SEwerage Mapping and Informaton System)が完成しました。しかしこの初代SEMISは汎用機ベースで新宿の本庁1箇所にしかなく、閲覧できるのもそこだけで、各事務所にはSEMISから出力したものを製本し毎年配っていました。その後10年間、データ整理しながら使われましたが、この初代SEMISは大きなシステムで維持管理費もかかるため、2000年度にパソコンベースのSEMISの再構築を開始しました。翌2001年度にこれが完成して実際の運用が始まっています。



「SEMIS」に蓄積された膨大なデータを活用するために

Q. SEMISとはどのようなシステムですか?
A. 前述の通り2001年度から稼働しているSEMISは、パソコンベースの下水道台帳情報システムです。このシステムの再構築と同時にネットワーク化も行ったので、現在では新宿の本庁はもちろん、8管理事務所、23出張所、3建設事務所でこのSEMISを利用することができるようになっています。また、現在ではインターネットを経由して下水道台帳を公開し、一般の方も利用できるようになっています。さらに、CALS/ECの電子納品に対応し、SEMISと設計CADとの連携を実現するため、2003年度からSXF(P21)対応機能の整備も開始しています。SEMISは、簡単にいえば1万5,000kmに及ぶ東京都区部の下水道管路網の情報を、図面ベースで管理する情報システムです。
下水道局CALS/ECの実現イメージ
下水道局CALS/ECの実現イメージ
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各管路の図面データには、各種の管理情報はもちろん、下水道管の管径や材質、距離、工事年度など総計90項目以上にのぼる属性情報を備えています。先ほどSEMISの歴史をご紹介しましたが、そこからも分かるとおり、SEMISは非常に古くから東京都の下水道施設に関わる膨大な量のデータを蓄積してきました。そして、特に再構築後の新SEMISになってからは、日常的な下水道局業務にもとてもよく使われています。今回の設計CADとのデータ連携についても、SEMISの持っているこの膨大な情報を、より広く活用していこうという試みから始まったものだと言えるでしょう。



SXF対応機能によるSEMISのデータリサイクル

Q. SEMISと設計CADの連携からどんな効果が期待できますか?
A. 設計CADとの連携が可能になる以前は、設計作業も工事完了後のSEMISのデータ更新作業も、すべて紙ベースで作業を行わなければなりませんでした。すなわち、設計を委託された外部の設計コンサルタントは、SEMISの画面に出てくるような施設平面図や管路図、図書といった紙の資料を収集し、膨大な量のコピーを取る必要があったわけです。設計者はこれらを基に設計を行い、新たに設計図面を作製して、紙の図面の形で工事施工部署に渡していました。工事の請負者はこの設計図面を基に工事を進めるわけですが、工事が終了したら工事請負者は再び手作業で一つ一つ、たいへんな労力をかけて、別途、完了図などを作成していました。そして、これらの完了図などの成果図書は、下水道局側の各工事主管部署を経由してSEMIS管理部署(施設情報管理係)に集められ、この完了図を基に委託業者が一つ一つ図形追加や削除などの更新作業を行っていきます。
SEMIS起動画面と施設平面図
SEMIS起動画面と施設平面図
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属性項目についても同様で、完了図を見ながら、それぞれ90項目もの属性情報を手入力でSEMISへデータ登録していました。こうした作業で大きな手間とコストが発生していたのは言うまでもありません。しかし、今回SEMISがSXF(P21)への対応したことによりCADデータでの受け渡しが可能となり、CADデータによるデータリサイクルが実現します。これらの膨大な手作業も不要となり、幅広い業務の効率化、省力化が推進されることになります。



CADデータによるデータリサイクルの流れ

Q. SEMISによるデータリサイクルの運用はどのような形になりますか?
A. データリサイクル後の新しい作業スタイルを具体的にご紹介しましょう。下水道施設の更新工事を行う場合は、まずSEMISを用いて、下水道局の職員がCAD用データの切り出しを行います。SEMISの起動画面から住所などを使って画面検索し、工事予定箇所のデータを呼びだします。そして、必要となる管路網の範囲、用紙サイズなどを指定し、その部分だけを属性データを持ったCADデータとして切り出し、規定のフォルダに吐き出します。できあがったフォルダ内にはSXFのファイルとXMLのファイル、さらにSXFバージョン情報ファイルの3つが作成され、この3種のファイルが設計CAD側で使用される元図の役割を果たします。ファイルはCD-Rなどに収めて下水道局の設計者から外部の設計コンサルタントに渡され、設計コンサルタントはこれを基に設計図を作成するわけです。そして、完成した委託設計図面は下水道局に電子納品され、局の監督者はデータの内容をチェックした上で、これを工事請負者に設計図書データとして提供し、請負者はこの設計データを元に工事を行い、さらに完了図面を作成して電子納品します。電子納品された完了図面データは下水道局のSEMIS管理部署(施設情報管理課)によって再びSEMISに登録され、各種の属性情報も含め最新データに更新されて、CADデータによるデータリサイクルが完成します。



SEMISのデータリサイクルから生まれるメリット

Q. SEMISのデータリサイクルが生み出すメリットを具体的にご紹介ください。
A. たとえば工事完了後のSEMISへのデータ登録・更新作業に関しては、完了図を選んで更新対象を指定し、旧データと画面上で比較検討して更新ボタンを押すだけで既存データが更新されます。さらに既存情報との整合性をチェックし、土地用途種別など維持管理業務に必要な属性を追加記入すれば、更新作業は完了です。紙ベースでの更新では避けて通れなかった図面スキャンや完了図を見ながらの管渠・マンホール・地形などの転写作業、90項目に及ぶ各種属性の手入力など、膨大な手作業は不要になるわけです。もちろん、設計段階で設計委託されたコンサルタントが行う膨大な紙資料の収集、コピー、転写作業は不要ですし、工事段階でも工事請負者は渡された図面を修正するだけで済み、完了図面を新たに起しなおす必要はありません。業務の流れのさまざまなシーンで、かなりの効率化が見込めるでしょう。
なお、更新作業にかかわる今後の課題としては、管路図としては必要のない属性でも、維持管理に必要な情報が多々あるので、そうした属性も継続的に入力していく必要があります。
いずれにせよ、まだでき上がったばかりのシステムなので、本格的な更新作業はこれからです。今後さまざまなケースの更新作業を行いながら問題点を解決し、さらに作業の効率化を図っていく必要があると考えています。(2007/2/26掲載)


※1 概成とは、99.5%以上普及している状況をいう。

〈参考URL〉
東京都下水道局「下水道台帳」
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/osigoto/daicyo.htm