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CALS/ECマガジン
CALS/EC効果的事例レポート

第4回
『建設業のIT化をサポートする、長野県「ITアドバイザー制度」
−CALS/EC有資格者(RCI/RCE)が活躍する新しい業務フィールド−』(2006/11/9掲載)
長野県 土木部
土木政策課 技師 長崎宏昭氏

NPO法人 長野県ITアドバイザーセンター
副理事長 増沢延男氏
理事(事務局長) 小林久氏
電子納品をスムーズに行うためには、受発注者双方の実務レベルの正しい知識とノウハウの普及が重要となる。長野県ではCALS/ECインストラクター(RCI)やCALS/ECエキスパート(RCE)などのCALS/EC資格を有する技術者を中心にITアドバイザー制度を創設。電子納品をはじめとする建設業のIT化を幅広くサポートし、大きな効果を上げている。
このITアドバイザー制度や、電子納品の取り組み状況、CALS/ECの今後の展望について、長野県土木部の技師 長崎宏昭氏と長野県ITアドバイザーセンターの副理事長 増沢延男氏、理事 小林久氏に話を聞いた。

※ A1:長野県土木部 技師 長崎宏昭氏
※ A2:長野県ITアドバイザーセンター副理事長 増沢延男氏、理事 小林久氏

平成19年4月から全案件の電子納品を実施
中小建設業のIT化を支援するITアドバイザー制度
CALS/ECの有資格者(RCI/RCE)の業務フィールドを拡大
電子納品をスムーズかつ正確にサポート
建設IT化を生かして実現する建設業界イノベーション


平成19年4月から全案件の電子納品を実施

Q. 長野県におけるCALS/ECの取り組み状況をご紹介ください。

左前:長野県土木部 技術管理幹 西澤氏、左後:長野県土木部土木政策課 技師 長崎氏、右前:NPO法人長野県ITアドバイザーセンター 副理事長 増沢氏、右後:同センター 理事 小林氏
左前: 長野県土木部 技術管理幹 西澤氏
左後: 長野県土木部土木政策課 技師 長崎氏
右前: NPO法人長野県ITアドバイザーセンター 副理事長 増沢氏
右後: 同センター 理事 小林氏

取材日:10月3日
A1. 長野県では、平成14年5月に「長野地域CALS/EC推進協議会」を設立、翌15年3月に長野県CALS/EC推進計画を策定し、この推進計画に基づいて電子納品を段階的に進めています。具体的には平成15年5月から予定価格5,000万円以上の工事、800万円以上の業務を対象に電子納品を開始し、平成17年1月からは予定価格3,000万以上の工事、300万以上の業務へと対象を拡大して実施しています。また、平成19年1月から予定価格3,000万未満の工事、300万未満の業務でも、紙納品も可能な試行というスタイルで電子納品に取り組んでいただき、平成19年4月からは全案件での実施を予定しています。全案件の実施にあたっては、電子成果品の利活用の具体的な目標を設定し、受注者にとって効率化が図られると判断したものを優先して電子納品できるようにし、発注者にとって将来の維持管理での利活用が想定されるものを適正に評価するような仕組みにする予定です。このようにCALS本来の目的を実現するために、電子納品自体を目的としないことが長野県のCALS/ECの特徴です。長野県においてITアドバイザーは、受発注者双方が協力してCALS/ECを実現し、現場から建設業のIT化を推進していくにあたり、重要な役割を担っています。



中小建設業のIT化を支援するITアドバイザー制度

Q. 「ITアドバイザー制度」とはどのようなものですか?
A2. 地場の中小建設業のIT化支援と建設産業技術者のための新事業創出を目的に、長野県が独自に立ち上げたのがITアドバイザー制度です。「ITアドバイザー」とは建設業とITの両分野の知識・ノウハウを備えた建設産業技術者による技術者集団。そうした知識・経験を活かして建設会社や工事現場に行き、電子納品業務をはじめ各種の建設業務のIT化に関わるアドバイスなど、幅広いサポート活動を行います。その制度化の経緯は、平成15年8月にさかのぼります。このとき、第一回の準備会が開かれ、各種団体の協力を得て建設業の離職者によるアドバイザー制度というアイディアが生まれました。そして、さまざまな準備を進め、同年11月には試行という形で県内で10件ほどの電子納品対象工事を決め、実際にITアドバイザーを派遣しました。
ITアドバイザー制度の概要図
ITアドバイザー制度の概要図
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その結果を受けて関係者と議論を重ね、翌年の平成16年9月にNPO法人の「ITアドバイザーセンター」を立ち上げました。これは中小建設業者のIT化支援の仕組みを県内の業者自身が考え、これに行政側が協力していくという公益的な視点を重視し、NPO法人としています。その設立趣旨は、電子納品だけでなく電子入札やそれ以外のITの導入などについても包括的に支援するというもので、電子納品推進事業はITアドバイザーセンターが取り扱う事業の一つです。



CALS/ECの有資格者(RCI/RCE)の業務フィールドを拡大

Q. センターのITアドバイザーはどういった方が多いのですか?
A2. ITアドバイザーは建設会社など建設産業からの離職者を主体に、企業所属社員を登録したり民間のアドバイザー企業を登録するなどして構成されています。当センターの場合は現在、会員を含め約40名のITアドバイザーが活動しています。ITアドバイザーのキャリアはさまざまですが、一つ共通点があるとすれば、40名のうち約30名がCALS/ECインストラクター(RCI)やCALS/ECエキスパート(RCE)の有資格者であることです。特にITアドバイザーの必要資格として定めたわけではありませんが、結果としてこれが、RCI、RCE有資格者の能力を大いに活用できる新しい業務フィールドとなっていることは間違いありません。RCI、RCE有資格者にとっては、資格自体のメリットがまた一段と大きく拡がったといえますね。
A1. 私自身も2年前にRCI資格を取得し、最近更新登録を行いました。長野県では、県建設技術センターとともに受発注者向けに電子納品に関する実務研修を実施していますが、私自身、CALS/ECについての理解を深め、主体的に取り組んでいくにあたり、RCI資格の取得は非常に役立つものでした。



電子納品をスムーズかつ正確にサポート

Q. ITアドバイザーセンターの活動状況をご紹介ください。
A1. 電子納品推進事業は、受発注者の着手時及び検査・納品前協議時にITアドバイザーが参加し、電子納品についての助言、指導を受けることで、協議の円滑化と電子納品に対する技術力の向上を図り、電子納品の品質向上を目的とした制度です。平成17年1月に電子納品の対象案件を拡大するのと同時に開始し、平成17年度末(平成18年3月)までに約170件、受注者数は約120社で、担当した技術者の数は約170名にのぼります。この120社170件に対して、40名のITアドバイザーが電子納品のサポート活動を行いました。受発注者共に、電子納品についての知識や経験の蓄積がほとんどない場合でも、電子納品実務の知識を持つアドバイザーが受発注者協議に立ち会い、実務の中で適切なアドバイスしてくれるので、協議は比較的スムーズですし、電子納品開始当初よりも、電子納品についての手戻りが減っています。また、着手時及び検査・納品前協議では長野県オリジナルのチェックシートを使用していますが、これも実務の中で様々な経験をしているITアドバイザーセンターからご意見をいただきながら、随時見直してバージョンアップしています。
A2. 当初、県内の受注者はパソコンはあっても写真管理ソフトなど電子納品関連のソフトはない会社がほとんどで、発注者側の理解も遅れていましたが、いまや電子納品への理解はだいぶ進みました。現場でのITアドバイザーのアドバイスは多岐にわたりますが、例えば県の工事番号に間違えてCORINS番号が入力され、エラーが出ていたケースがありました。もちろんすぐにITアドバイザーが確認してエラーを解消。事無きを得たのは言うまでもありません。



建設IT化を生かして実現する建設業界イノベーション

Q. ITアドバイザーの展開を含め、今後の展望をおきかせください。
A2. センターの役割はCALS/ECを現場に浸透させていくことです。CALS/ECは、一部の大企業にとどまらず中小企業まで浸透させないと、その真の効果は発揮されません。しかし、県内の中小事業者への普及は現状でもまだまだ充分とはいえず、各業者は電子納品を外注や委託に出すことさえ難しいのが現状です。また、電子納品の内容を理解していなければ、発注しても完成品のチェックさえ困難なのです。当センターはこうした中小事業者へのCALS/ECの普及促進に貢献したいと思っています。そのためにも、CALS/ECの専門家としてCALS/EC有資格者の活用と活躍がますます重要になってくると思います。
新たな活動としては、よりわかりやすい電子納品の手引書を作成しています。あまり厚いと「どこを見ていいか分からない」という業者も多いので、全部読まなくてもいいもの、簡単に実務に使えるものを目指しています。いずれにせよ、CALS/ECの現場への普及にともない、RCIやRCEの重要性も増していくでしょう。JACICにはこれらの資格をさらに広めていってほしいと思います。
A1. CALS/ECに代表される建設業のIT化は業界全体のテーマであり、今後、建設業者の技術力を示す指標のひとつになり得るものだと思っています。
電子納品のインセンティブ
電子納品のインセンティブ
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現在の建設業界は、例えば入札においても価格面での競争に偏りがちですが、今後は価格だけでなく、技術力を含めた価値による競争に転換していきたい。実際、長野県では現在、「総合評価落札方式」という、価格だけによらない落札方式の実施を拡大していますが、その中で、業者が示す技術力のひとつの指標としてCALS/ECへの取り組みが認められ、受注に有利になるような仕組みを作っていければと考えています。(2006/11/9掲載)


〈参考URL〉
長野県
http://www.pref.nagano.jp/doboku/kanri/gikan/system/cals/cals-main.htm

NPO法人長野県ITアドバイザーセンター
http://www.it-ad.com/

CALS/EC資格制度
http://www.cals.jacic.or.jp/qualification/index.html
http://www.cals-ec.info/index.html