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CALS/EC効果的事例レポート

第3回
『市町村初! 単独ASP方式による電子入札コアシステムの導入』(2006/5/16掲載)
鹿沼市 総務部
契約検査課長 熊倉 操 氏

鹿沼市 総務部
契約検査課 契約担当 水沼栄二 氏
急ピッチで進む地方におけるCALS/ECの流れのなか、いよいよ市町村においても電子入札、電子納品の導入が始まっている。しかし、この市町村レベルのCALS/ECの導入・運用においては、公共工事の予算規模の違いなどから国や県のそれと同じ方式は使いにくいケースもあり、独自に新たなシステムの構築をめざす市町村も出てきた。例えば、電子入札の導入では自己導入方式や共同利用方式などがあるが、電子入札コアシステムのASP方式を全国に先駆け単独導入したのが栃木県鹿沼市である。その導入経緯と背景について、鹿沼市総務部契約検査課のお二人に話を伺った。

談合対策のため早期導入。全国にさきがけ単独ASP方式を選択
導入費用も運用費用も他方式より大きくコストダウン
プロポーザル方式によるASP事業者選定はコストが決め手
他の市町村の見本となれるような電子入札システムへ
透明性を高め、官民双方の業務効率化を目指す


談合対策のため早期導入。全国にさきがけ単独ASP方式を選択

Q. 鹿沼市の電子入札導入に至る流れをご紹介ください
A.
鹿沼市役所
鹿沼市役所
栃木県が電子入札推進の活動を始めたのは平成14年頃でした。この年から翌年にかけ、本市議会でもこの問題に関する質問があり、私たちもその必要性を認識するようになりました。実はこの頃、県から共同利用の話もありましたが、この時は結局市町村の足並みが揃わず立ち消えとなったのです。その後、談合情報が相次いだこともあって早期導入の必要性が高まり、平成16年にあらためて検討を開始。まず当市単独の自己導入方式で参考見積りを徴取しましたが、あまりに経費が莫大で――当市の工事予算規模からすると投資効果が疑問ということで予算化は見送られました。さらに平成17年度の予算計画のため、いわゆる共同利用方式を検討すべく県に問い合わせましたが、当時は県も自身の導入を優先するということでした。しかし、そのやり取りの中でコアシステムのASP方式の話を聞いたのが1つのきっかけとなり、概算金額を問い合わせたところ比較的安価だったため、内部検討を経てこれに決定しました。平成17年2月策定の粟野町との合併に伴う新市街づくりプランにも電子入札システム導入事業計画を盛り込み、17年7月には翌年度以降の総合計画実施計画にASP方式による電子入札を計上しました。これにより平成17年12月の補正予算及び平成18年度当初予算において予算措置がなされ、本年2月にASP方式電子入札に関するプロポーザルを実施するに至りました。プロポーザルの結果、3月上旬には業者を決定し、現在具体的なアクションを開始しています。



導入費用も運用費用も他方式より大きくコストダウン

Q. 単独ASP方式を採用した理由は何ですか?
A. 当初の計画では栃木県が主体となって共同利用方式を構築し、県内の市町村を取りまとめる計画があり、当市もそれに参画する予定でした。しかし、宇都宮市が単独路線を打ち出し県自身も前述のように手が回らなくなってしまい、いつになるか分からない状況になってしまったため、鹿沼市も独自の方策を考える必要が出てきたわけです。そこでASP方式を選択したのは、やはりコスト面の問題が大きかったですね。他の方式も見積りを取りましたが、金額的に合うものがなかったのが実情で。例えば自己導入方式の見積りでは、運営費用が5年間で1億数千万という金額でしたが、これでは当市の年間工事予算からしてもありえません。その点、コアシステムのASP方式は導入費用も、その後の運用コストもはるかに低く抑えられます。これは運営費用のことだけではなく、例えばハードの管理や更新、コアシステムのバージョンアップなどへの対応も業者に任せることができ、管理費用全体を抑えられるのです。また導入作業自体の容易さや、専任スタッフを養成する必要がない点も大きかったですね。この3月にはJACICとのコアシステムのリース契約も締結し、4月には発注者用認証カードの申し込みをしました。本年度内にAランク事業者を対象に、年間約20件程度の電子入札を試行する計画です。



プロポーザル方式によるASP事業者選定はコストが決め手

Q. ASPサービスの提供事業者の選考にあたってのポイントは?
A. 平成18年2月に実施した業者選考のプロポーザルには、2社の応募がありました。当初それぞれプロポーザルの評価書に基づいて採点を行いましたが、結果は同点。そこでまず価格面、そして両システムの本市の庁内LAN環境とのマッチングなどを厳密に検証した上で決定しました。最大の選定ポイントはやはり価格が大きかったのですが、この業者がCALS/EC関連のCADソフトをはじめとして建設土木分野に豊富な実績をもち、電子入札コアシステム開発コンソーシアムの正会員企業の一社だったこと。そして、多くのCALS/EC資格者を擁していた点も大きな安心感につながりました。ちなみに市町村単独でのASP方式の採用は全国でも本市が最も早く、他に前例がなかったのは知っていましたが、県レベルでは例えば青森県が試行運用を進めていますし、単独ではありませんが市町村でも金沢市と白山市がこの方式による共同利用の試行を行っているようです。また、私たちも「CALS/EC MESSE 2006」でこのASP方式に関わる実証テストのセミナーを受けるなどして研究していましたので、他の市町村に前例がなくても不安は特にありませんでした。



他の市町村の見本となれるような電子入札システムへ

Q. 電子入札の今後の展開計画をご紹介ください
A. 本年度はまず、発注金額5,000万円以上の工事に関して試行的に電子入札を行っていく計画です。工事件数でいうと前述の通り20件程度となります。こうした試行を徐々に件数を拡大しながら来年度まで2カ年にわたって行い、契約検査課での実施状況を見ながら徐々に他部門の入札にも拡大していきたいと考えています。この他部門への普及、浸透は今後の大きな課題ですが、例えばJACICの電子入札コンソーシアムのホームページに開示されている各種の資料が分かりやすく便利なので、こうしたものも利用しながら普及を進めていきます。もちろん業者に対する普及活動も重要な課題です。すでに3月末に一度、鹿沼市内の全業者150社余りに集まっていただき本市の電子納品及び電子入札の概要に関して説明会を開きましたが、業者の皆さんも電子入札導入についてある程度予期していたようで、特に大きな反応はありませんでした。もちろんさらに具体的な運用に関して、7月にあらためて説明会を開催する計画です。また、コアシステムはあくまで基本形ですから、いずれ本市の業務内容や運用スタイルに合わせて電子入札システム自体のカスタマイズも行っていきたいと考えています。実際にはカスタマイズの内容にかかわる具体的な要望は、本市の電子入札運用方針が決定した後、その内容や実際の運用状況を踏まえた上で出していくことになるでしょう。前述の通りASP方式の単独導入は本市が初めてになるわけですから、いろいろな意味で他の市町村の見本となれるようなシステムに仕上げていきたいですね。



透明性を高め、官民双方の業務効率化を目指す

Q. 電子入札の導入効果やその影響についてどのようにお考えですか?
A. 本市の電子入札システムはまだスタートしたばかりですし、具体的な導入効果といってもまだこれからですが……私たちが一番期待しているのはコストダウンです。これは私たち発注者側の業務効率化ということももちろんありますが、受注者にとっても同じく効率化の効果はけっして小さくはないはずです。例えばこれまで本市の入札は、本庁にスペースがないので文化センターを借りて行っていましたが、電子入札になれば業者の方はわざわざそこへ足を運ばなくて済むわけです。交通費や人件費なども節減できるのではないでしょうか。私たちとしては、その分が入札価格やより質の高い工事内容に反映されていくことを期待したいですね。また、本市では近年公共工事での談合情報が相次いでいますが、この談合防止の観点からも入札の透明性を高める電子入札の役割は大きいでしょう。まずはどこよりも早く普及し、本格稼働させて、いち早く具体的な導入効果を上げていきたいですね。また、今後は電子入札単独の効果でなくCALS/EC全体で効果を出して行く仕組みを考えていく必要があります。例えばASPについても、入札資格審査の電子申請受付や監督員と現場代理人等の文書の庁内回覧などが可能な情報共有システムがあると聞いていますので、こうしたシステムについても積極的に情報収集を進めていくつもりです。(2006/5/16掲載)