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CALS/EC効果的事例レポート

第2回
『電子納品成果の維持管理フェイズでの活用
 ―道路工事完成図等作成要領(案)の展開―』(2006/3/27掲載)
国土交通省国土技術政策総合研究所
情報基盤研究室 研究官 関本義秀 氏
CALS/ECの公共事業デジタル化プロジェクトにおいて、いわばその最後の仕上げともいうべき工程が、維持管理フェイズにおける電子納品成果物/電子データの利活用である。
電子入札、電子納品など上流工程の着実な発展に比べるとこの後工程の研究はやや遅れ気味だったが、ここへ来て急速な具体化が始まっている。なかでも新たな施策として注目を集めるのが「道路工事完成図等作成要領(案)」だ。この要領(案)の策定と試行作業で主導的役割を果たす、国土交通省国土技術政策総合研究所・研究官の関本義秀氏にお話を伺った。

「道路工事完成図等作成要領(案)」の位置づけと狙い
電子納品成果による迅速なデータベース更新で幅広い利活用を
必要な電子情報を工事完成時に「完成図」へ落とし込む
平面図へ記載する事物項目は28項目に極力スリム化
道路管理者ばかりでなく民間での活用の可能性も拡大


「道路工事完成図等作成要領(案)」の位置づけと狙い

Q. 「道路工事完成図等作成要領(案)」策定、試行の背景をご紹介ください。
A.
関本義秀氏
関本義秀氏
CALS/ECを中心とする政府の情報化推進の流れのなか、道路行政においても、スマートウェイの本格導入やETCから次のステップを目指すITSセカンドステージへの展開など、急ピッチで情報化が進んでいます。もちろんCALS/ECの電子入札や電子納品もその流れと共に進行中ですが、そこに少しずつ課題も見えてきました。それがCALS/ECの後工程での電子データの利活用です。例えば、工事ではCD-ROMで図面などが電子納品されますが、残念ながら現状ではこのデータが道路管理者に管理図として利用されることはありません。電子データの仕様が異なるため、実際には使いようがなく、放置されている場合もあるようです。もともと管理図や維持管理用のデータベースは、電子納品が始まる前から存在していますが、その更新に留意して電子納品の要領を決めるという、言ってみれば異なるフェイズ間における本格的なデータ交換については、当時はあまり対応できていなかったかもしれません。すなわち、後工程でどのように利用されるかがわかりくいために、電子納品そのもののインセンティブが見えにくかったとも言えるのかもしれません。――こうした状況を改善して後工程で電子データの利活用を推進していくには、道路の維持管理段階で必要となる内容を明確化し、工事の実施段階でこれを効率的に作ってもらう必要があります。そのために現在策定を進めているのが「道路工事完成図等作成要領(案)」です。



電子納品成果による迅速なデータベース更新で幅広い利活用を

Q. 工事実施段階で維持管理に必要なデータを作成する際のポイントは?
A. 道路に関しても既に様々な空間データがあります。特に数値地図25000、DRM(デジタル道路地図)データなど、小縮尺的な空間データはある程度全国レベルで整備が進んでいます。しかし、日常的な管理業務にも頻繁に使う1/1000から1/500の大縮尺的なものとなると、情報量がさらに多くなるためデジタル化の作業も大変です。これらは個々の行政機関で取組む必要がありますが、実際にはなかなか難しく、例えば、道路台帳付図や施設管理台帳なども紙の図面か、せいぜいラスタデータということが多いようです。とはいえ誰もがこれを何とかしたいと思っており、近年のコスト縮減や業務効率化などの観点から「できるだけ安く簡単にデジタル化したい」という行政ニーズも拡大しています。そこで重要になるのが、道路更新情報の蓄積とデータベース更新の迅速化です。実際、データベースは立ち上げ以上に更新し続けていくことが難しいわけで、工事段階で発生した道路の更新情報を確実に図面等に落し、これを蓄積していくことが重要になるのです。そして、その最新情報を基に迅速にデータベースを更新していくことで、維持管理はもちろん調査計画や設計、施工まで含め、様々な事業フェイズへの利活用の可能性が広がっていきます。



必要な電子情報を工事完成時に「完成図」へ落とし込む

Q. 「道路工事完成図等作成要領(案)」の狙いをご紹介ください。
A. 前述の通り、これは道路の維持管理段階で必要となる電子情報を、工事自体の実施段階で効率的に作成していただくための「要領(案)」です。つまり、必要な電子情報を工事完成時にきちんと「完成図」に落とし込もう、というのがその基本的なスタンスですね。そこで「要領(案)」では「完成図」とこれに付随する「施設台帳」の定義を明確化し、そのための図面作成の方法や電子納品の方法を規定しています。特に「完成図」の中でも「完成平面図」を重視しているのが特徴で、この「完成平面図」と「施設台帳」については、発注段階で発注者から電子データの貸与がない場合も含めて、全て電子納品としています。もちろん発注者が整っていないデータしか貸与できない場合等については、費用の面も含めて対応していくことにしているため、対象工種については電子納品を必須とします。また、製図の仕方やフォルダの命名規則などの詳細については、基本的には既存のCAD製図基準(案)や電子納品要領(案)を活用していく考えです。
具体的な進行については、平成17年5月に試行版を定め、その上半期だけでも全国50現場ほどの道路工事において試行を実施しました。道路維持管理に必要なデータを完成平面図(CADデータ)や施設台帳(CSV)として電子納品してもらっています。また、下半期においても100現場弱の試行を進めています。



平面図へ記載する事物項目は28項目に極力スリム化

Q. 電子納品データはどんな形式で蓄積されることになりますか?
A. 維持管理フェイズでの具体的な活用は、やはりGISのような形で行われることが多いと考えています。そしてGIS側では道路の基本的な空間データを「道路基盤データ」(GIS)と定義しており、施設については「道路施設基本データ」(MICHI)としていますので、電子納品された完成平面図(CADデータ)と施設台帳(CSV)は、その後、それぞれこの「道路基盤データ」と「道路施設基本データ」に変換し蓄積されます。また、記載対象となるデータ項目――つまり平面図に具体的にどんな事物項目を記載するか――ですが、既存の施設台帳の点データなど電子情報も多いのでこれを活用し、平面図の対象項目は極力スリム化しています。具体的には車道や歩道、交差点、管理区域界等、道路の基本的な線や面データをきちんと取れるような形で28項目ほど決めています。
サンプル図面
サンプル図面
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また、CADデータ自体はローカルなデータで置かれていることも多いので、これも電子納品後にGISに変換しやすいように、例えば、距離標の緯度、経度や標高データも取得して、評定や接合に活用できるような形にして蓄積していきます。CADデータとGISデータは異なる部分も多く変換は容易ではありませんが、属性セットやエリアコントロール等の機能も備えたGISと親和性の高い「SXF Ver.3.0」を採用しており、このSXF Ver.3.0対応データを作成するための対応CADの開発も民間では進んでいます。



道路管理者ばかりでなく民間での活用の可能性も拡大

Q. 変換・蓄積した後の具体的な活用に関するイメージは?
A. 道路管理者による電子データの具体的な活用手法については、現在検討が進められている段階です。例えば、道路台帳的な利用、あるいは道路基盤データからさまざまな数値的なものを算出して統計値的に活用するなど、用途はいろいろ考えられます。もちろん維持管理データの迅速な更新・蓄積が進めば、一部は民間への提供も考えられます。その場合、民間の各種の地図の更新のための基礎データとして利用してもらうのが基本となるでしょう。身近な例ではカーナビなどもただ最新のデータというだけでなく、例えば、一時停止の情報を加えて安全支援を図るとか、勾配情報を入れて渋滞削減・CO2削減を図るなど、幅広く活用できると思います。
現在はH18年度の本運用を控え、下半期の試行を行っている段階ですが、上半期に比べ作図要領等も極力シンプルにしていく方向で修正しています。例えば、レイヤの扱いも1地物1レイヤでシンプルに書いてもらえるようにしました。既にベンダーさんによる対応CADの開発はほぼ完了し、我々も各地方整備局への説明も行ってきました。説明会は受発注者双方に向け行っていますが、他にもホームページにヘルプデスクを設けるなど、施工者に対する多角的なフォローを行っています。機会があったら、ぜひ国総研のホームページをご覧いただければと思います。(2006/3/27掲載)