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CALS/ECインタビュー

第4回
『公共事業ライフサイクルの効率化、品質の向上に向けて −大阪府建設CALSの取り組み 〜開発から運用フェーズへ〜−』
大阪府 都市整備部
事業管理室 建設CALS推進グループ 主査
梶川正純 氏
西日本の政治・経済・文化の中心地ながら、危機的な財政状況に陥っている大阪府にとって、CALS/ECは単なる業務IT化策ではない。危機的状況を乗り越えるための大規模な行財政改革の一環と位置付け、公共事業執行業務をよりトータルに支援する独自の建設CALSシステムの構築を進めている。ここではその計画を主導する大阪府都市整備部事業管理室建設CALS推進グループの主査・梶川正純氏にお話を伺った。

危機的財政状況を乗り越えるための行財政改革の一環として
BPRをキーワードに現行業務を徹底分析し最適化
「個が主体」から「共有が主体」の業務スタイルへ
大阪府建設CALSシステムの共通基盤と業務フェーズに沿う9つのサブシステム
建設CALS本格運用と共に取り組むさらなる課題


危機的財政状況を乗り越えるための行財政改革の一環として

Q. 大阪府におけるCALS/ECへの取り組みの背景をご紹介ください
 
梶川正純 氏
梶川正純 氏
ご承知のとおり大阪府の財政は危機的状況にあり、このことが一連の行財政改革、ひいてはCALS/ECの取り組みに繋がっています。例えば平成19年度の大阪府の一般会計予算は3兆2,555億円で、うち建設関係の予算は2,870億円。実はこの数字は平成12年度以降、7年連続で減少しており、いまや建設関係予算はピーク時の39.2%まで落ち込んでいます。そして平成18年度単年度の収支は675億円の赤字で、平成19年度にはさらに992億円の赤字に膨らむ見込みです。まさに危機的なこの財政状況を乗りきるため、大阪府ではさまざまな行財政改革に取り組んできました。特に府政再生に関わる改革では、事業コストの縮減だけでなく行政システム自体のコストダウンが必須と考え、組織の再編やスリム化、施策の再構築、そして新しい行政システム作りなどを課題とする行財政改革計画を策定、推進しています。特に人件費削減に関しては、平成14年から平成23年にかけて約6,200人規模の職員削減を進めており、職員数は平成13年当時の約4割減となります。その中で行政サービス水準を維持・向上するため、ITの活用と業務自体の民間への開放による業務の最適化を推進。IT府庁を目標とする業務電子化への取り組みが始まっており、CALS/ECもその取り組みの中の一つとして位置付けられています。このように「せっぱ詰まった」背景のもとで進められている点が、大阪府のCALS/ECへの取り組みの特徴だと言えるでしょう。行財政改革については、今後、新たな計画をお示ししていくことになると考えております。



BPRをキーワードに現行業務を徹底分析し最適化

Q. そのような状況の中で、どのようにシステムの開発を進められたのですか?
  建設CALSシステムに限らず、システム開発においては、BPR(Business Process Reengineering)がキーワードとなっています。つまり、まず現行業務を具体的に分析することから始まるわけです。大阪府では、システム開発にかかわるプロジェクト関係者間での共通認識を醸成するとともに、その業務実態を正確に把握するため、平成15年度に日常業務の内容の詳細な調査・分析を実施しました。実際の調査は、各業務の工程を詳細に展開していくイメージで、例えば公共事業発注に関わる設計積算業務では、委託協議に至る約160の工程を詳細に調査し、およそ2,000の作業ステップで構成されていると分析しました。こうした結果から工程ごとの業務量の極端な差や、転記や集計作業などの効率が悪い工程も明らかになり、これらの最適化を目指して、システム化のための基本課題を練り上げました。すなわち業務フローの統一、情報の共有・再利用、業務の自動化・遠隔化、転記作業の解消、既存システム情報の利用などで、その開発自体は3段階に分けて段階的に進められます。開発のための基礎調査や第1期建設CALSシステムの開発を主題とするフェーズ1(平成13〜15年)、業務改善方策に基づく業務モデル構築や第2期の建設CALSシステム開発を行うフェーズ2(平成16〜19年)。そして、本運用開始のフェーズ3(平成20年以降)となっており、平成20年度以降、本格的なCALS/ECの運用が始まる予定です。



「個が主体」から「共有が主体」の業務スタイルへ

Q. 大阪府建設CALSシステムの概要をご紹介ください
  大阪府建設CALSシステムは、公共事業のライフサイクル全般にわたる情報を一元管理し、あらゆる業務情報の流通、共有、有効活用により、公共事業執行全般における業務効率化と品質向上を支援します。システムは、まず公共事業のライフサイクルにわたる文書・データ・図面・地図など、多彩な情報を統合的に管理するデータベースにより、職員間・システム間・業務フェーズ間の情報を共有・活用できる環境を提供します。次に業務プロセスを一元管理し、各業務で必要な作業ガイダンスや情報をタイムリーに提供。もちろん業務で必要な業務ガイドや事例、テンプレートなどの知識情報も提供していきます。そして、最も大きな特徴がGISを活用した情報提供です。事業や施設の管理情報や各種の調査結果などの電子情報をGISと関連付け、地図情報からの迅速な検索を支援します。またGISを活用することによって、組織間の重複管理を避けることができ、視覚的に捕らえられることによって情報収集の迅速化、簡便化が可能となります。業務のスピードアップは、業務の効率化につながり、行政品質の向上にもつながると考えています。……公共事業の執行に関わる職員の業務スタイルは、建設CALS以前は個人が主体でした。さまざまな業務資料はすべて個人に集まり、個別に管理されるため、他者がこれらを活用することは容易ではありませんでした。これに対して建設CALSシステムを活用した業務はすべて共有が主体。あらゆる業務情報は一元的に管理され、システムを通じて広く共有化されます。しかも建設CALSの共通基盤となるGISと連携し、位置情報も提供されます。これによりあらゆる業務情報は、デジタルデータのカタチで担当者間をスピーディに回っていきながら、ナレッジとして広く活用されることが可能となるでしょう。

個が主体の業務スタイル
個が主体の業務スタイル
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共有が主体の業務スタイル
共有が主体の業務スタイル
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大阪府建設CALSシステムの共通基盤と業務フェーズに沿う9つのサブシステム

Q. 大阪府建設CALSシステムの具体的な構成をご紹介いただけますか?
  システムは、全体の共通基盤(位置情報基盤)となるCALS共通基盤と、その上に置かれる公共事業の業務フェーズに沿った9つのサブシステムによって構成されます。建設CALSの共通基盤は、1/500、1/2,500、1/25,000といった地図による共用空間データベース上にGISプラットフォームが置かれ、さらにその上に道路などの地図台帳、住宅地図、航空写真、都市計画などの主題情報が重ねられています。位置情報基盤は多様な地図と検索機能を備え、土木・建設事業など発注部局で共通利用されるほか、庁内システムでの共有空間データベースとしても活用されます。次にサブシステムですが、まず「公共事業執行管理支援サブシステム」は主要機能として入り口にあたるポータル、事業執行管理、業務フロー管理、そして必要な機能や情報を統合的にガイドするナレッジマネージメントの機能を持っています。そして調査計画フェーズを支援するのが「事業計画支援サブシステム」と「調査情報管理サブシステム」。設計・積算フェーズでは「設計積算情報管理サブシステム」、「発注図書管理サブシステム」。工事・施工フェーズでは「関係者協議サブシステム」、「工事施工管理サブシステム」があります。そして維持管理フェーズの「維持管理サブシステム(要望管理/パトロール)」でサイクルが完結。これら各フェーズのサブシステムが、共通基盤データベースである「台帳管理サブシステム」に情報を入出力することで、あらゆる情報の共有・利用が可能となります。



建設CALS本格運用と共に取り組むさらなる課題

Q. 建設CALSの取り組みの現状と今後の展開について伺えますか?
  平成20年度の全面運用を目前に控えた現在、大阪府建設CALSシステムは、「維持管理サブシステム」の一部などを除き、大半が既に運用を開始しています。しかし、実務での活用はまだ充分とは言えませんし、建設CALSシステムの必要性に対する認識も各部署では不足している部分があり、さらなる利用の拡大と使用者のスキル向上が大きな課題となっています。具体的には、たとえば初期設定がされていなかったり不適切であったりするため、システム自体使えないという問題。本来システムに格納されるべき台帳などのデータが整備されず、システム上で利用できるデータや帳票が不足しているという問題。各業務とシステムの関係が不明確で、どの業務の場面でシステムを使うかが分かりにくいという問題。さらにはパソコンが古くパワー不足でシステム利用時の動作が遅い等々、さまざまな課題が挙げられています。これらに対する具体的な対策としては、まず担当部署ごとに建設CALSシステム担当者を2名以上指定。この担当者を中心に、システム利用の環境整備と利用促進を推進していきます。例えば、必要なデータ入力・更新を各所属に期限付きで実施要請することや、各自の業務の中で業務の流れに沿ったシステムの利用説明書を作成すること、毎週・毎月のシステム利用数・利用率などを公表しつつ、継続的にシステムの問題点について各所属から意見を聴取し改善を図ること、なども必要でしょう。間もなく始まる建設CALSシステムの本格運用へ向けて、公共事業ライフサイクルの効率化、品質向上を目指す、大阪府の取り組みにご注目いただきたいと思います。
また、同じような取り組みをされている他自治体の皆様とも意見交換をさせていただきたいと考えておりますので、お問い合せ等をいただければ幸いです。(2008/3/19掲載)