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CALS/ECインタビュー

第3回
『世界初の「電子入札の国際標準」の開発―日本主導による完成までの経緯とその意義―』【パート2】(2007/1/19掲載)
電子入札国際標準化委員会 委員長
中央大学 総合政策学部長/教授
大橋正和氏

電子入札国際標準化委員会 委員
有限責任中間法人IAI日本 代表理事
株式会社CIラボ代表取締役
山下純一氏
日本が幹事国となって作りあげた世界初の「電子入札の国際標準」。この快挙は、今後の日本と世界にどのような影響をもたらし、日本のCALS/ECの展開へはどのような影響が考えられるのでしょうか。パート2では、この「電子入札の国際標準」がもたらす成果と今後の課題について、引き続き大橋和正氏と山下純一氏にお話をうかがっていきます。

2005年6月UN/CEFACT総会で承認、国連正式文書へ
ビジネスプロトコルの概念が最大の成果
次世代CALS/ECの中核は標準化戦略
国際標準を通じて世界各国に及ぶ日本の影響力
CALS/ECの一つの究極型


2005年6月UN/CEFACT総会で承認、国連正式文書へ

Q. 国際標準完成へ経緯とその現状についてご紹介ください
 
山下純一 氏
山下純一 氏
山下氏 前述のとおりUN/CEFACTで私たちが日本の電子入札の取り組みについて発表し、電子入札国際標準化プロジェクトが発足して日本が幹事国となったのが2002年3月でした。同年5月にはUN/CEFACT向けの日本国内の調整を行う「電子入札国際標準化委員会」が設置され、大橋先生が委員長に就任しました。そして、日本をはじめとした各国の開発、調整作業などを経て、2004年3月に日本が国際標準原案を提案。これが2005年6月のUN/CEFACT総会において承認され、国連の正式文書として国際標準第一版が制定されたわけです。
この第一版では、電子入札における発注者と応札者の間の各種の手続きの処理手順、およびそこで処理されるべきデータ項目などを定義しています。この国際標準にかかわる文書はBRS(Business Requirement Specification)というUN/CEFACTの標準文書形式で作成されており、システム内部の処理手順を確認することができます。各国はこれを利用して、個々の電子入札システムの仕様に国際標準を利用していくことになるでしょう。さらに日本側の提案によって、すでに調査・設計など業務や物品、そして役務にまで範囲を広げた第2段階の検討も進められ、国際標準案第2版として完成しており、公式発表を待つばかりです。

電子入札国際標準の範囲(第1版)
電子入札国際標準の範囲(第1版)
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電子入札国際標準の範囲(第2版)
電子入札国際標準の範囲(第2版)
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ビジネスプロトコルの概念が最大の成果

Q. 今回の開発を通じてどのような成果があったとお考えですか?
 
大橋正和 氏
大橋正和 氏
大橋氏 もちろん電子入札の国際標準を作ったこと自体が大きな成果であることは当然ですが、個人的には、今回の開発を通じてビジネスプロトコルという新しい概念を確立できたことが、最も大きな成果だったと考えています。ビジネスプロトコルという概念は、皆さんもあまり聞き慣れないものだと思いますが、これはさまざまなビジネスモデルを普遍化、抽象化していく方法論というべきもので、これによってEビジネスにおけるさまざまな手法を、きちんと表現する手段が確立できたといえるものです。
たとえば、CALS/ECでもさまざまな方法論が出ましたが、いずれもプロセス中心のメソッドでした。標準化に関しても今で言う実装に関わる部分の細かい標準がたくさんありました。そのため、現場の技術者たちは優秀な技術を持っているけれども、CALS/ECの95%まで理解できても残りわずか5%が理解できず、その導入がうまく行かない、ということが当時よくありました。あまりにも細かいところが窮屈でがんじがらめで、短期間では分かりにくかったんですね。技術者は忙しくてトレーニングする時間もなかなか取れないですし。ですから、こうしたビジネスプロトコルのような概念がもっと早く確立できていれば、その流れに基づいて実装を決めていくような形で、CALS/EC自体の理解がもっと早くなったかも知れませんね。



次世代CALS/ECの中核は標準化戦略

Q. すると今回の成果は日本のCALS/ECの成果とも言えるのでしょうか?
 
UN/CEFACT内の標準策定の流れ
UN/CEFACT内の標準策定の流れ
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大橋氏 そうですね。CALS/ECに関しても新しいことにチャレンジしなくてはいけないという思いがありましたし、次世代のCALS/ECの中核となるのはこの標準化戦略だろうと、今回の取り組み以前から考えていました。つまり、CALSでは各分野ごとにおのおのが標準を作っていましたが、そうではなく、いかにビジネスモデルとして抽象化していくかーーCALSで行ったことをいかに普遍化/標準化していくかということ。それこそがECの根幹であり、CALS/ECに関わる次のステップの大きな課題だと思っていたわけです。だからこそ、私にとってはこれが実現できたことが、すでに述べたとおり今回の国際標準化の一番の収穫なのです。
もう一つの意義としては、実装と切り離した形で進めたのが大きかったですね。実際にはXMLスキーマなどで実装と繋がなければなりませんが、今はWebサービスのユーザーなど新しい方向性も出てきていますから、必ずしも使用ソフトを固定する必要はありません。むしろモデルを普遍化/抽象化することで幅広い応用が可能になっているのです。むろん普遍化/抽象化といっても紙の書類の流れをそのまま普遍化したのではなく、デジタルデータをベースに行っています。つまり、あくまでXMLのデータなどがベースにあり、データの仕組みの中で考え、作っていったわけです。まさに、電子商取引の標準化を専門とする、UN/CEFACTの真骨頂といえるでしょう。



国際標準を通じて世界各国に及ぶ日本の影響力

Q. 日本にとってのメリット、成果という点ではいかがでしょうか?
 
電子入札国際標準の利用イメージ
電子入札国際標準の利用イメージ
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山下氏 日本が主体になって開発したこの国際標準は、日本の電子入札システムがベースになっており、開発過程でも日本のチームが寄与した部分が非常に多いのが特徴です。結果として、今後この標準を使って実装を進めていく世界各国に、日本の影響力が及ぶことになるのは確実でしょう。また新体制となったUN/CEFACTとして初の成果であり、UN/CEFACT内の内部規則やドキュメント作成ルールなどの策定にも寄与できた、という点において各国から高く評価されているのポイントです。
大橋氏 日本のシステムがそのまま国際標準になったわけではありませんが、少なくとも我々がCALS/ECで慣れ親しんでいるものをベースとした国際標準を基に、各国といろいろ仕事ができること自体、大きなメリットになるでしょう。また今回の開発を通じ、日本は幹事国として参加各国のさまざまな特徴や特色、意見などを橋渡しし、調整する能力を持っていると証明できました。裏返せばこれからの日本にはそうした調整役としての責任もある、といえるかも知れませんね。アジアにはEUのような組織はありませんが、国際標準に関しては、今後もある程度責任を負ってリーダーシップを取っていくべきでしょう。EUに代わるアジアの組織を日本が中心となって作るとか。各国がモデルを作ったり、何かを標準化したいというのであれば、それを応援していくとか。そういったことにも取り組んでいく必要があります



CALS/ECの一つの究極型

Q. 国際標準及びCALSに関して今後の課題と展望をお聞かせください
 
左:大橋 氏 右:山下 氏
左:大橋 氏 右:山下 氏
山下氏 今までのCALS/ECはプロセスを変えずに電子化しようというやり方が多かったですが、それでは実質的な効果は期待できません。デジタル化するなら業務プロセス自体を変える必要があるわけで。これは大変やっかいな作業ですが、真剣に考えていかなければならない課題です。もう一つの問題は、その「デジタル化に合わせた新しい業務プロセス」の中身を誰が考え、設計するのかです。現状でもまだはっきりしてない場合が多く、今後の重要な課題です。また、国際標準に関しても同様で、今後日本がさまざまなプロジェクトに参加して意見を言うことが大切なのはもちろんですが、そのためにはこれまで以上に人や資金の問題が重要になってくるでしょう。
大橋氏 国際標準の普及が及ぼす影響において一番大切なのは、入札の仕組みの透明性が高くなることです。これは断片的な情報が何でもオープンになるなどというのではなくて、何かを行った時のそれぞれの関係性がきちんと表に出て、誰にでもそれを把握できるということ。そうなると、何事にも後からの検証が非常にしやすくなりますから、おのずと談合のようなものは起こり難く、新規参入はしやすくなりますね。また、こういう構造物はこの会社にしか造れない、ということも証明しやすいのです。標準化ができていると、否応なくこの透明性/Transparencyが高くなるわけで。その意味で今回、私たちはCALS/ECの1つの究極型を作ったといえるのかも知れませんね。(2007/1/19掲載)
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国際標準の内容とXMLスキーマ

今回、UN/CEFACTが開発した電子入札の国際標準は、電子入札を行う上で必要な手続きと、その手続きに必要なデータ項目の標準、及びこれらの手続きとデータ項目をもとに作成されたXMKスキーマを含めたものによって構成されている。
XMLスキーマとはW3C(World Wide Web Consortium :WWWの標準化を行う団体)で提唱された、XML文書の構造とタグを定義する仕様を指す。UN/CEFACTでは手続き(プロセス)の標準であるBRS(Business Requirement Specification)を標準文書としており、これにデータ項目標準であるRSM(Requirement Specification Mapping)とXMLスキーマを技術仕様書として付属させることになっている。