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CALS/ECマガジン
CALS/ECインタビュー

第1回
『受注者と市民のメリットを踏まえたCALS/EC普及のゆくえ』(2005/9/29掲載)
財団法人 千葉県建設技術センター
業務部 部長 宮内常吉 氏
業務部 技術指導課 課長 櫻井謙治 氏
記念すべき第1回は、独自の電子納品作成支援プログラム「CStool」を開発・提供するなど、先進的な取組みで知られる千葉県のCALS/ECを支援する(財)千葉県建設技術センター 業務部の宮内常吉部長と同技術指導課の櫻井謙治課長にお話を伺った。
「CStool」の開発や受発注者双方に対する各種の活動など、同センターのCALS/EC支援活動の中心にあるお二人である。

千葉県CALS/ECの現状と独自の電子納品支援ソフトの開発
電子納品を意識させない電子納品支援ツール
重要なのは運用面の継続的なサポート
CALS/EC推進の今後の展開
「市民参加」と「情報公開」がCALS/EC進展のカギ


千葉県CALS/ECの現状と独自の電子納品支援ソフトの開発

Q. 貴センターでは、独自に電子納品作成支援ソフト「CStool」を開発されましたが、その開発の背景について、千葉県のCALS/ECの現状と共にご紹介ください
A.
宮内常吉 氏
宮内常吉 氏
千葉県におけるCALS/EC、特に電子納品への取組みが始まったのは2003年で、まず委託業務に関する各種の実証実験・試行運用から始まりました。翌2004年には工事に関しても試行運用を行い、その後、順次対象工事の範囲を拡げていく形で電子納品を拡大しています。具体的には2005年は設計金額1千万円以上の工事、百万円以上の委託でスタートし、2007年に全てが電子納品化される予定です。
こうしたなか、昨年度電子納品について各県の実施状況や現場状況について調査したところ、実際に電子納品業務に携わっている現場においてかなりの負担が生まれていることがわかりました。例えばフォルダの扱いなど、かなり複雑だということで……このままでは受発注者ともにスムーズに電子納品に移行するのが難しいのではないか、という声が上がりました。そして、一連の電子納品業務を支援するツールが必要だということになりました。当然いろいろな市販のソフトも調査したのですが、誰にでも簡単に使えてしかも千葉県の現場にフィットするものとなるとなかなか難しい。そこで我々が最適なものを作ろうということになったわけです。
開発にあたっては、千葉県県土整備部並びに社団法人千葉県建設業協会に協力をいただきながら取り組みました。



電子納品を意識させない電子納品支援ツール

Q. 「CStool」とはどんなソフトなのでしょうか。開発コンセプトとその特徴をご紹介ください
A. 「CStool」のコンセプトは、まず受注者が「電子納品を意識しないで電子納品できる」ということです。そして価格もできるだけ抑える。県内の業者の方々は非常に多く、それぞれ公共事業を受ける数も異なりますが、例え年に一件しか公共工事をやらない方でも電子納品していただくことになります。当然、そういった業者の方々にとっても、コストも作業も、現場に負担なく電子納品を行えるようなツールでなければなりません。
このようなコンセプトに基づいて開発した「CStool」は、主に「文書管理」「写真管理」「納品物作成」の3つの機能で構成されています。文書管理は公共工事の現場で使う打合簿などさまざまな文書を、写真管理は工事写真を、いずれもドラッグ&ドロップで容易に分類整理し管理できます。そうしておけば「納品物作成」で電子納品成果物も半ば自動的に行えるわけですね。例えば工事写真も、普段は撮影日ごとにフォルダに放り込んでおいて、後で事前に準備されている工種に従い仕分けていけば、自動的に工種ツリーが作成される。施工現場における書類・写真関連の業務をトータルに支援し、同時にそれを電子納品に結びつけるシステムなのです。価格は1件につき3,500円で、新しい案件ごとにダウンロードしてもらう形式です。国交省の基準(案)の改訂にも随時対応していますから、受注者はつねに「受注決定時点での最新バージョン」を使うことができるわけです。



重要なのは運用面の継続的なサポート

Q. 「CStool」を使った電子納品の流れと、その普及について伺えますか?
A. 受注者はまず発注者と事前協議を行い電子納品の対象範囲など決定。そしてその取り決めに基づいて当センターへ電子納品登録申請を行います。納品物作成に「CStool」を利用する場合は当センターのホームページからソフトをダウンロードし3,500円の利用料を納付してから「CStool」を運用し電子納品を行います。「CStool」の使用は強制ではありませんが、これを使えば自動的に「チェック済み証明書」が発行され、受発注者双方の形式チェックを省略できます。双方にとって非常に効率的ですね。この点は千葉県の電子納品運用ガイドラインにも記載しています。
櫻井謙治 氏
櫻井謙治 氏
ただし、ツールはなんでもそうですが、作りさえすれば使ってもらえるというものではありません。大事なのはむしろその使い方など具体的な運用面をきちんとケアしていくことです。業界向けの「CStool」説明会も活発に行っており、2005年春までで既に500社以上の業者の方々に受講していただきました。各支部からは説明会を開いてほしいという要望が届いていますので、今後も引き続き開催していく予定です。これとは別に電子納品の研修会も、県内のほぼ全ての業者の方々を対象に16日間かけて行いました。しかし、電子納品は1社1人理解していればいいというものではなく、まだまだ継続して広げていく予定です。ちなみに千葉県の場合、こうした研修において「CStool」だけで説明することができるのも大きなメリットです。通常はさまざまな製品が使われていて個々の操作方法も異なり、統一的な説明が難しくなりがちですが、千葉県は「CStool」で統一的な説明をスムーズに行うことができるのです。



CALS/EC推進の今後の展開

Q. 貴センターの電子納品およびCALS/EC対応に関わる今後の計画と展望をお聞かせください
A. 前述の通り、電子納品や「CStool」などの研修活動はさらに継続して進め、県内の市町村支援の研修・講習会なども行っていきます。そして電子納品に関する次のステップはCAD化です。受発注者ともに現場の本格的なCAD化は正直これからですから、その支援は重要なミッションとなるでしょう。CADは電子納品だけでなく幅広く活用して業務効率化を図っていけるツールです。現場の声に耳を傾けながら、さまざまな提案と共に普及を支援していきたいですね。また、電子入札に関してもこの夏から業界向け研修会を開始しました。模擬サーバを使いWeb経由で実際にシステムを体験してもらう実践的内容の研修を行っています。さらに今年度から1千万以上の工事の電子納品が始まり「CStool」の運用について現場の問合せも増えているので、電子納品現場のサポートも一層強化していきます。
それから、当センターでは納品された成果物の副本を預かり、これをチェックする業務も行っており、チェック後はこの副本データを保管しています。将来は当然この電子納品成果物、デジタルデータの2次的な活用も始まりますから、求められたらすぐ提出できるよう副本データの検索システムやバックアップシステムも充実させていく必要がありますね。



「市民参加」と「情報公開」がCALS/EC進展のカギ

Q. CALS/ECは私たちの社会をどう変えるのか。何をもたらすのか――CALS/ECの普及・進展によって期待されることについてお考えをお聞かせください
A. CALS/ECは、公共事業のIT化によりその業務効率化とコストダウンを図ろうというものですが、そのメリットを発注者ばかりが享受していたのでは不公平ですし、そもそもそれではCALS/EC自体が普及しないでしょう。発注者ばかりでなく受注者にも、そして一般の市民に対しても大きなメリットを生みだすような、そんなCALS/ECでなければなりません。その意味では、前述した効率化による行政サービスの質的向上ということばかりでなく、例えば成果物データの2次的な活用などについても、受注者や県民の皆さんに積極的にオープンにして、皆さんの意見・要望を聞きながら取組んでいくこと――「情報公開」と「市民参加」がCALS/ECの重要なポイントになるのではないかと考えています。
例えばGISを活用して、地域の工事情報を地図とリンクさせてWeb経由で情報公開する。工事の予定はもちろん、竣工後の公共建設物の竣工年をはじめとしたさまざまな情報をインターネット上で情報公開すれば、きっと地域の住民の方の役に立ちますし、CALS/ECひいては、まちづくりに対する市民の関心が高まると同時に理解の促進が図れます。CALS/ECで電子納品されたデータを、市民に公開すべきものは公開し、市民に役立つ2次的なデータ活用などを積極的に実践する。そして、まちづくりおよび建設に携わる行政並びに建設業者のイメージアップを図りたいですね。
また、これからは自分の住むまちへの市民の関心や意識がますます高まってくると思います。市民も自分のまちに関する情報を共有できるのであれば、情報をフィードバックしてくれると思います。携帯電話やデジタルカメラ、インターネットの普及がこれに大きく貢献するでしょう。地域の情報を行政・建設に携わる業者・市民の3者で更新していけば、いい関係が築け、住民参加型のより良いまちづくりの実践が可能になるのではないでしょうか。
それから、受注者の方もせっかく業務をデジタル化するのですから、そのデータを自社で活かす2次活用についても考え、メリットを生み出してほしいですね。特に図面データなど、建物のライフサイクル・マネジメントやアセット・マネジメントの観点から発想すれば、その活用用途は想像以上に大きいはずです。建設マーケットの縮小が続いていますが、CALS/ECの普及・進展によって生まれる、建設に携わる業者だからこそ可能な新しい業務もいろいろあるはず。ぜひ受注者の現場の発想に基づくアイディアを聞かせてほしいですし、支援できることは積極的に支援していきたいですね。(2005/9/29掲載)